第2章 少女、結婚する。
簡易的なワープポイントを参進の儀開始地点に置き、足腰が良くない人でも、わざわざ崖を登らなくても良いように配慮した。鳴神大社の代表は八重宮司なので私たちの先頭に立って歩いてもらうようにお願いしてある。
「では、手を握って下さい」
『はい』
ワープするのにわざわざ手なんて握らなくてもいいだろうとは思うが、一応見せかけの為に必要なのだろう。
「緊張しますか?」
『いえ』
不思議と緊張はしなかった。頭でも分かっていて、もうどうしようもないと諦めているのかもしれない。
「準備は良いか?童」
「ええ」
「浮かない顔じゃのう、薫?」
『え?いえ、そんなことは…』
八重宮司にはなんでもお見通しらしい。
「心配せずともよい。なんとかなる」
他人が何とかなると言うのは簡単が、当人からしたらたまったものではない。けれどこの晴れの日にわざわざ言うことでもないので慎んだ。
「では、始めるぞ。良いな?」
八重宮司の一言で空気がピリッと変わった。一列に並んで鳴神大社に向かって歩いていく。荘厳な雰囲気が一気に広がった。鳴神大社の神櫻の前に着くと、それからは一気に進んでいく。通常の結婚式通りに祝詞だの清めの儀式だの、退屈な時間が続いた。しかし次に神前式の一番大事なものが控えている。それが誓杯の儀。よく聞く三々九度の杯がそれだ。
初めに彼に小さい盃が渡り、3回に分けて飲む。巫女に盃が戻されて、3回に分けてお神酒を注ぐ。今度は私に同じ盃が渡り、3回に分けて飲み干した。1回目と2回目は口を付けるだけでも良いらしいが、私は折角口を付けたのなら飲み干したいタイプだ。
本来ならば私と同じくらいの年齢の娘ならば、夫と盃を交わして胸がときめいていたかもしれないが、相手が相手なのでときめくどころか吐き気で溢れかえっている。ただでさえ稲妻の酒は好きじゃないのに。
「では誓詞奏上を行うが良い」
八重宮司が私達に言い放ち、誓いの言葉を綴った紙を綾人が持った。私は以下同文と言わんばかりに隣で棒立ちである。
「何卒、幾久しくお守り下さい」
綾人が最後の言葉を言い終えて、間髪入れずに玉串奉奠が始まる。あとはまた退屈な流れだった。漸く退場となって終わりだったら嬉しかったのだが、今度は披露宴も始まる。神里邸で行われるので、逃げ場がない。迫り来る未来に溜息をついて、のろのろと退場していった。