第2章 少女、結婚する。
「分かりました」
客間の扉を閉めて、すぐに私の執務室に向かった。既に椿が椅子に座っていた。
「お姉ちゃん、急に結婚だなんてどうしたの?」
『え、えっと…』
「しかも、あれだけ避けてた神里家の当主様と!」
妹には分かっていたらしい。あの場では祝福しても、私の事を案じてくれていたのだろう。
『仕方ないのよ。将軍様からの勅命なの』
「えぇ⁉︎将軍様から⁉︎」
『こら、声が大きいわ』
妹を嗜めて、私も普段自分が座っている椅子に座った。まだ机の上には資料や書類が大量に置かれている。
「そっか…」
『本当は私がやりたかったけど…貴方にも櫻小路商会を半分位任せる事になるわ』
「それは…構わないけど。お姉ちゃんは良いの?」
『将軍様に逆らうわけにはいかないわ』
これは庶民の宿命。上の人が白と言えば白だし、黒と言えば黒になる。不条理な世の中だ。
「ねぇ、思ったんだけど、書類仕事は私に任せてくれないかな。私はお姉ちゃんみたいに商談とか得意じゃないし…」
『良いの?大変じゃないかしら?』
「何言ってるの。私だってとっくの昔に成人して、お姉ちゃんやお父様の仕事を見て育ってきたんだよ。それに私、机に向かう方が好きなんだよね」
確かに昔から椿は勉学がとても優秀で、私よりも凄いはずだ。ただ他の人と関わるのが苦手で、友達の数は少なかった。
『じゃあ、貴方に任せるわ。よろしくね』
「任せて。それじゃあ、お姉ちゃんも上手くやってね。ダメだったら此処に戻ってきても全然良いんだからね」
確かに、帰る家があるのは良い事だ。これからは椿がこの家を担っていく事になる。
『自慢の妹がいて良かった。お姉ちゃんも頑張るから、ね』
「うん」
可愛い妹の頭を撫でた。櫻小路家に代々伝わる桃色の髪。中でも妹の髪はふわふわしていて本当に桜のようだった。
「お嬢様方、お夕食のお時間です」
『今行くわ。行きましょう、椿』
「はい、お姉様」
スイッチを入れ替えて椿も席を立った。普段であれば食卓では椿は砕けた感じになるのだが、今日は賓客もいるから仕方ない。
「おや、2人一緒だったのかい」
『はい。今後の話し合いを』
「そうかい。頼もしいね」
「ええ、そのようですね」
お前に言われたかないけどな!と声を大にして言ってやりたいが、淑女としてそんなはしたない行いはできないので、渋々諦めたのであった。