第2章 少女、結婚する。
祝福はされているらしい。見覚えがある人もちらほらいる。
「これから彼女の家にも挨拶に行ってくるから」
「行ってらっしゃいませ、お兄様、薫様」
『い、行ってきます…』
外堀からどんどん埋められている気がする。既に手遅れのような気がしてきた。
「さあ、行こうか。薫?」
『はい…』
渋々彼の手を取って、また歩き出した。神里屋敷から出て、来た道を戻る。相変わらず倒したはずのヒルチャールはいつの間にか沸いているし、道中ではファデュイに挑まれたりして苦戦した。
『はぁ…』
「おや、疲れましたか?」
『来た時より敵が多かったので。ですが別に休むほどではありません』
弱みを見せてはダメだと、自分を奮い立たせた。いくら戦闘に長けていないと言えど、全て彼に任せておくままではいけない。
『それから、言いそびれていたのですが…』
「なんでしょう?」
『結婚式を盛大にするなんて聞いていませんが?秘密裏に行われる物だと思って、結婚している事も隠すと考えていたのですが』
「まさか。貴方の事ですからなんとなく理解していたのでは?」
流石に盛大にやるとは思っていなかった。普通に結婚式を挙げて暫くしたら、誰それと結婚したと城下に噂が回って、気が付いたらそんな噂も無くなってる。それが結婚したらの大まかな流れだ。
『だとしても、盛大にやる必要なんて…』
「社奉行と稲妻一の大商会の結婚ですからね。普通にする方がおかしいでしょう」
『と言うか、結婚式の費用などはどうするのですか!私、今日まで何も知らされていなかったのですよ!』
急に結婚式をやると言われて困るのは予算の事もその一つだろう。本人の同意なしに勝手に結婚式を進められて、じゃあお金はこれだけ掛かったから払ってねなんて言われても今すぐには難しい話だ。別に同意なしの結婚に至っては怒っていない。稲妻ではそういった事は珍しくないからだ。
「費用については心配ありません。全て社奉行と鳴神大社の方で負担する事に決まっています」
『いやいや…そういうわけにもいかないでしょう。当事者が払わないでどうするのですか…』
貴方は払わなくて良いので安心してください、なんて言われても正直安心できるわけない。現実的に見ると、社奉行は没落しかけの状態からなんとか立ち直って、栄えていた頃にはまだ遠く及ばない影響力だ。
「払わなくて良いなら喜ぶべきでは?」