第2章 少女、結婚する。
「そうだ。皆に報告があるんだ。皆を集めてくれるかい?」
「はい、すぐに」
白銀の髪をサラサラと靡かせて綾華嬢が駆けていく。楽しそうな背中と裏腹に、私は憂鬱な気分で一杯だった。
「行きましょうか?薫」
名前で呼ぶなと、そう言いたい所だがこれからあいつと夫婦になると思うと、名前で呼ばれない方が不自然だ。此処は合わせた方が良いのだろう。
『あの』
「なんですか」
『名前で、呼んだ方が良いのですか?』
本当は嫌だが怪しまれない為には、演技も必要だろう。
「そうしてくれと言えば、呼んでくださるのですか?」
『必要だと判断しただけです』
「ではそう呼んで下さい」
昔のように呼べば良いだけ。それだけだ。ただ身分が身分故に大分恐れ多い。
「では、練習しましょうか。ほら、呼んでみて下さい」
『は、はぁ⁉︎』
顔で分かる。面白がっているのだ。
「さあ」
『あ』
「あ?」
口が震える。また、前の様に呼べば良いだけ、それだけだ。
『あそこに八重宮司が!』
「ほう?」
八重宮司は無下にできないのか振り向いた。その隙に神里屋敷に入り込む。昔と変わらない、綺麗な庭に枯山水。
「ふふ、貴方もいじらしい人ですね」
『うるさいですよ』
「呼べば良いだけですが…」
分かっている、頭ではしっかり分かっている。
『分かっています…今呼びます』
「どうぞ」
『……綾人』
恐る恐る顔を上げると、嬉しそうに目を細めて笑っている。これはきっと作り笑いに違いない。
「ふふ…では行きましょうか、薫」
『…はい』
自然と手を取って歩き出す。一歩一歩が緊張で溢れていた。
「皆、揃ったかな」
ぞろぞろといろんな人たちが集まってくる。1人だけ部外者で、少し居心地が悪い。
「若、畏まってどうしたんですか?」
「実は、結婚する事にしたんだ。彼女と」
そう言うと途端に黄色い歓声が上がる。どうやら神里屋敷で、彼は相当慕われているようだ。
『え、ええと…櫻小路 薫と申します』
「まあ!薫様と!」
綾華嬢の驚いた顔が何故か心にグサッと刺さる。騙しているような気がしてならない。
「結婚式は数日の内に盛大に行う予定だから」
『え』
盛大に?全くもって聞いていない。秘密にされていたのだからもう少し小ぢんまりと行うものかと思っていた。
「兎に角、おめでとう!若!薫さん!」
『あ、有難う…』