第2章 少女、結婚する。
『逆に払わなくて良いと言われた方が喜べませんよ。タダより高いものなんてないのですから』
「貴方らしいですね」
『はぁ…』
全くもって悪びれていない姿を見るに、私に一銭も払わせる気はないのだろう。
「黙っていたお詫びだと思って下さい」
『結局認めるんですね…事前に知っていた事』
私だけ何も知らない状態なのが解せない。別に怒らないから事前に伝えてくれれば良かったのに。
「ふふ、もうそろそろ稲妻城下に入りますよ」
『話題逸らすの下手ですね貴方…』
私の家は稲妻城下郊外にある。大きい屋敷なので、城下にあっては邪魔だし目立つ。
『此処からは私が案内します。こちらです』
「なんとなく覚えてはいますが…」
『客人をもてなすのは当たり前です。良いから黙って付いてきて下さい』
「もてなし…ですか」
呆れたように彼が笑う。もてなしなんて死んでも御免ではあるが、それなりに顔は立てなければなるまい。なんせ、稲妻でも最も有名な三家に入る神里家なのだから。
『貴方に、お願いがあります。私に話を合わせて下さい』
「と言いますと?」
『私が望んで結婚したように振る舞って下さい』
「その程度でしたら構いませんが」
父に今更政略結婚するだなんて言えるはずがない。自由に生きろと何度も言う父に顔が立たない。
『では、よろしくお願いします』
自分の家に戻ってきて、こんなにドキドキした日もそうないだろう。
『此処です。どうぞお入り下さい』
「ありがとうございます」
彼を中に入れて扉を閉める。年季の入った家だが、手入れはしっかりしている。それもこれも使用人達のおかげだ。
「お帰りなさいませ、お嬢様。…あら、お客様ですね。ようこそ櫻小路邸へ」
『客間に通して。お父様と椿も一緒に呼んでくれる?お茶の用意もお願い』
「かしこまりました」
侍女に要件を告げて草履を脱ぐ。綾人も同様に靴を脱いでいた。
『応接室に案内します。付いてきて下さい』
「はい」
重要な賓客であるので主が案内する。それは侍女達も分かっているのだろう。
『こちらです。どうぞ』
「失礼します」
部屋に入ると、暫くして侍女がお茶を持ってきた。次に妹の椿も到着し、最後にお父様が到着した。お父様はもう1人では歩けないので、使用人と共に時間をかけないと歩けない。
「お姉様、どうなさったの?」
『これから大事な話をするわ』