第2章 少女、結婚する。
流浪の武士、聞こえは格好がいいかもしれないが野伏衆が貨物や食料を狙って今か今かと物陰に潜み、偶に北国の女王の駒であるファデュイ達も見かける。
「稲妻城を出ます。気を付けて」
『はい』
常に武器は持っている。武器といっても魔導書だが。小さい頃から刀は握っていたけど、自分には向いてないと分かってから法器に鞍替えした。
「まだ稲妻城から近いですから、安心でしょう」
『そうですね』
そのまま白狐の野まで入り、中程まで行ったら北西の道に逸れる。そうすると段々浜が見えてくるのだ。浜まで来たら、浅瀬を超えて鎮守の森へと入る。
『此処は相変わらず暗いですね…』
「近くにヒルチャールとファデュイが出るとの報告もありますから、気を付けて。なるべく早く抜けましょう」
『はい』
この道をまた戻らなきゃいけないのが大層面倒臭い。これからの事を考えると既に鬱だった。
「Ya!」
『わっ…』
「ヒルチャールですね。早めに片付けましょう。準備はいいですか?」
『え、ええ。援護は任せて下さい…』
短い詠唱を何度も唱えて敵に氷属性を付与する。彼の元素と相性は良かったようでどんどん敵が凍っていく。
「終わりましたね。さ、行きましょう」
『は、はい』
初めて実践で使ったが、割と出来るものだなと感心した。
「お怪我は?」
『いえ、後方に居ましたので問題ありません。貴方の方こそ…』
「私も慣れていますので」
どうやら本当にそのようで、白い衣装に汚れ一つ付いていない。少しだけ感心するも、気にする事なくどんどんと北西に進んでいった。
「着きました」
『はぁ…』
神里屋敷に来るのは久し振りだ。小さい頃に招かれてそれっきり。
「お兄様。お帰りなさい」
「綾華、只今帰りました」
「あら、薫様もいらっしゃっていたのですね。お久しぶりです」
綾華嬢が素敵な笑顔で迎えてくれた。綾華嬢とは彼とは違い定期的に親交がある。というのも、神里家で社交を担当しているのは綾華嬢というのが大きいだろう。しかしそれだけではなく私が偶に家に招いてお茶会をよくしている。
『お久しぶりね、綾華嬢。最近忙しくてお茶会に招待できていなくて、ごめんなさい』
「いえ!お忙しい事は伺っていましたから、また落ち着いたら訪ねようと思っていたんです」
妹さんはこんなに可愛らしいのに、兄ときたら…全く読めない怖い男だ。