第2章 少女、結婚する。
「では、行きましょうか。まずは…」
『神里屋敷が先で構いません』
「ではそうしましょうか」
立ち上がって茶器を片付けようと手を伸ばす。するとその腕を掴まれた。
『な、何ですか…』
「茶器は後で片付けますから、まずは行きましょう」
『上の立場は楽ですこと』
嫌味たっぷりに言ってやった。当人へのダメージは0だが。そのまま手を離す事なく茶屋から出て城下を歩いた。道行く人の視線が痛い。
『あ、あの!離してもらって良いですか!』
「おや、すみません」
『いえ…見られているのでもう少し離れて歩いて頂けると…』
そう言っても一向に腕を離すつもりはないらしい。
『い、痛いので離して下さい』
こう言えば離してくれると思った。世の中の男性は余程の頭おかしい人以外は女性の痛いという言葉に弱い。
「失礼、ではこれで」
絶対にここまであいつの計算に入っていたに違いないと思った。さりげなく手を繋いで、何とも思ってないように歩き続ける。
『話を聞いてましたか⁉︎』
「これから結婚の報告へ行くのに何か遠慮する必要が?」
全て、全て目の前の男のペースだ。足掻くと言っておきながら、この有様だ。底なし沼に沈みかけの状態で必死に顔だけ出しているかのような。
『最悪…』
ため息のように、音のない声で呟いた。昨日まで、何も知らずにいた自分が恨めしい。
「道中、安全とは限りませんから気をつけて」
『自分の身くらい自分で守れます。神の目も一応、ありますし』
神の目を手にしたのはつい最近だった。お父様が寝込んでから、自分に商会の業務が殆ど移った時だった。自分にもう時期商会の重荷がのし掛かると自覚したのだと思う。業務終了と同時に机の横を見たらあった。
「おや、それは初耳です」
『誰にも言ってませんので』
神の目は稲妻人にとっては複雑なものだ。少し前まで神の目は没収されて、神像に埋め込まれてしまっていた。あっても、喜べないと思っていたものが、急に変わって。戦うわけでもないから元素力なんて大して必要としないし、ましてや今以上の力なんていらないと思った。
「では元素力を使った事は?」
『一度も。必要がありませんでしたので』
「では道中使う機会があるかもしれませんね」
ない方がありがたいが、そうもいかない。稲妻城を出れば、途端に安全性はガクッと下がってしまうのが現状だ。