第9章 ローグ 「一輪のジニア」
彼はジニアを踏みつけようとして立ち上がったが、すんでのところで脚を止めた。
「違う…、俺が守れなかった…」
そこで目が覚めた。
もう何時間も寝ていたようで、起きると小さな出窓の外は暗くなっていた。
誰も部屋に居ないなんて…。
でも今が逃げるチャンスだ。
そう思った瞬間、扉が開いた。
「カナタ様!」
ユキノさんが駆け込んできて私を抱きしめた。
「な、んで…?」
口をあんぐり開けていると
「カナタ!」
とスティングさんも駆けてくる。
「お前、心配したんだからな!」
そう言って驚くだけの私の頭を強く撫でてきた。
2人の泣きそうな顔を見てどれだけ心配させたかが目に見えてこっちまで泣きそうになる。
でもやっぱ、ローグさんは居ないよね。
私の考えたことが分かったのかスティングさんが私に言う。
「お前ら喧嘩してんだろ?だから、ローグは『俺は行かない方が良い』って。でも誤解すんなよ。アイツが1番お前の事心配してたんだ。受付にどこに行ったか聞いて、調べて。…アイツにも礼くらい言えよ?」
そう言われて申し訳ない気持ちになった。
「それより、お前。変な薬飲まされたろ?」
スティングさんの言葉にこくこく頷くと
「あれは自分の嫌な過去を思い出す薬らしい。…嫌な事、思い出したんだろ。大変だったな」
…自分の嫌な過去?
あれ?あの人って私?
「…私の夢…ローグさんと一緒にいた…。どこかに連れられて…。ローグさん…」
ユキノさんとスティングさんは顔を見合わせる。
ユキノさんが聞いてくる。
「じゃあ、本当にローグさんの言う通りカナタさんだったってことですか…?」
ユキノさんの声が通り過ぎていく。
本当だったのなら私はローグさんに酷いことを沢山してしまった。
「助けてくれてありがとうございました!…帰りましょう。早くローグさんに会いたい…!謝りたい」
少しよろめく足取りで走り出す私に2人は顔を見合せて着いてきてくれる。