第9章 ローグ 「一輪のジニア」

ギルドの前にローグさんが立っていた。
私を見て強ばった体の力を抜いて中に入ろうとするローグさんの腕を掴んだ。


「ごめんなさい…！ごめんなさい、ローグさん！私、カナタです…！！」


「…知っているが？」


コテン、と首を傾げているローグさん。


「そうだけど、違くて！私、ローグさんと昔居たカナタなんです！酷いこと沢山したけど…！」


意味に気づいたのか、目を大きく開いてからローグさんは黙り込む。


「…今更、ですよね」


何も言わないローグさんにユキノさんやスティングさんも声をかける。


「忘れていたんだし仕方ないですよ…！」


「そうだ…よ」


スティングさんの声が驚きで途切れる。
ローグさんが私を抱き締めたから。

強く、強く、痛いくらいに抱きしめてくる。


「思い出してくれたのか？守りきれなかった俺を許してくれるか？今度は俺から離れないか？」


震える声が耳元で聞こえる。


「全部は、思い出してなくて…。でも、ローグさん悪くない。むしろ私の方が……！」


「良い。カナタが生きているかも分からなかったあの期間よりよっぽど短い。それよりも長く、俺といてくれ」


泣く私の背中を擦りながらローグさんは言う。
何度も頷くとローグさんは私の両手を掴んで自分の腰に回した。

そして、彼は私の顔を両手で挟んでキスをした。

触れるだけのキスだったけど心はもういっぱいいっぱいで破裂しそうなくらい脈打っていた。

ローグさんを見ると彼も顔を赤くしている。
でも今までにないくらい幸せそうな顔をしていて。

私たちはまた強く抱き締めあった。




「…俺たちの事忘れてんだろ」


「しー！…今は2人きりにしてあげましょう」





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