第9章 ローグ 「一輪のジニア」
私達は草むらに腰掛けた。
ローグさんは語り始める。
「俺はスティングに出会う前、1人で山の中で過ごしていた。ある日、俺はそこに迷い込んだ少女を見つけたんだ。それがカナタだ。奴隷だったがどうにか逃げてきたらしくてな」
思い出しているのか、幸せそうに見える。
「それから何年もアイツと過ごした。カナタは俺にいつもベッタリで正直鬱陶しかった。無下にしたときもあった。でも、アイツは俺を好きでいてくれた。……優しくしてやるべきだったんだ」
目をつむって話している。
「でも、ある日アイツは居なくなった」
そう言ってからローグさんはため息をついた。
「俺が修行と言っていつもの場所に行った日、アイツは家にいて料理を作っていたはず。なのに、家に帰った時には居なくなってたんだ。家出とかじゃない。料理は作りかけだったからな」
そしてローグさんの手に彼の爪が強くくい込む。
「俺があの日家に居てやれたらカナタは守れてやれたはずなんだ」
私はローグさんの手を握って爪痕を無でる。ローグさんは目を開いて私を見た。
「本当に、お前じゃないのか…?」
胸がキュッと締め付けられる。
今にも泣きそうな彼の目に囚われそうだ。
でも、
「すみません…。きっと違います。貴方のことを私は覚えていないんです…」
そう言うとローグさんは下を向いた。
「少し、顔を洗いに行ってきて良いか?今の俺はとても酷いことを言った。お前の存在を否定するような。悪い事をした」
私に謝って彼は水やり用の水道に歩いて行った。
あの話を聞いて、ローグさんがどれだけもう1人のカナタさんの事を愛していて後悔しているのか分かった。
ちょっとでも慰めたいから来る時にあった出店で軽食でも買ってこよう。
唐揚げと焼きそば、アイスを買って戻る。
戻るとローグさんが何故か酷く取り乱していた。
「ローグさん!?大丈夫ですか?」
私の声に振り返ったローグさんが走ってくる。
そして私を強く抱きしめた。
「食べ物は無事…。どうしたんですか?」
食べ物を近くのベンチに置いてからローグさんの背中をトントンと叩く。
「…すまん。……俺から離れるな」
泣きそうな声で肩に頭を埋められる。
不安にさせたのか。申し訳ないことをした。