第8章 スティング 「貴方は貴方」
「このラクリマは情報によると人間を悪魔に変えるために冥府の門の奴が作り出したんだ。このラクリマは女の子供にしか効かない」
…アルに入れようとしてたのに?
そう伝えるとお医者さんは言った。
「それは……っ、君を誘き寄せるためだろう。……つくづく大人って気味が悪いね…。ごめんよ」
そう言うお医者さんの手を握って私は必死にううん、と首を振った。
「このラクリマは豪炎の悪魔を作り出すらしい。……そして、ラクリマに蝕まれ続けた体はゼレフ書の悪魔そのものに変わっていくんだ」
それを聞いて合点がいく。
アルが気味が悪いって言っていたのは私だ。
怖がらせていたのは、私だ。
悲しいけど涙は出なかった。
「俺も協力して治せるように善処するから、一緒に頑張ろう」
そう声をかけてくれたお医者さんに私は無言で深く深く頭を下げた。
それから4年後、お医者さんは亡くなった。
私のお母さんもお父さんも亡くなった。
お医者さんは息を引き取る前に一言言った。
「ごめんなぁ…、カナタ。治してやれなかった。一生の不覚だよ」
自嘲気味に笑うお医者さんが私の手を握る。お医者さんの手は見る見るうちに赤く火傷していく。
しかし、痛みも感じずお医者さんは天に昇った。
私のせいでお医者さんと、お父さんとお母さんは死んでしまった。
あれから剣咬の虎に来て、ポーリュシカさんと言う謎のお医者さん?に出会った。
ポーリュシカさんは私の赤と黒の半身を見ても気味悪がらずに研究をして私の体から周りを巻き込む毒素を取る薬と進行を遅らせてくれる薬を開発してくれた。
外見の事も気にしてくれて痣も治してくれた。
でも進行が止まったわけじゃない私はいつか醜い悪魔に変わる。
ポーリュシカさんでも治せないんだからもうどうにもならないことは分かっている。
ゆっくり思い出しながら列車の外を見た。
もう着く頃かな。
私は座席から立ち上がって停車した列車から降りた。