第1章 ナツ 「あの宝石」
腰をかけられるような場所に座ってから、ポツリポツリと男が言葉を発し始めた。
「俺たちの村は歴史に溢れた村だった。この村には守り神がいたんだ。それを祀る祭りが1番有名だっただろう。しかもこの村は四季折々でな。季節によって見える景色が違うんだ」
笑いながらも下を向いてため息をついている。自分で自分の手を握って何とか落ち着かせているようだ。
「祭りは絶対に1年に1度ないと駄目でな...。じゃないと厄災が起きるから…」
何故かまたあの悪寒が走った。
「ナツ、少し離れよう」
私はナツを後ろにしながら距離をとる。男は足を貧乏ゆすりさせながら今さっきより大きい声で話を続けた。
「村を暖めてやってたのも儂だ!雪をふらせていたのも儂だ!そのお陰で人々は生活出来ていたのに...!何故儂は忘れられる!?」
男がガクガクと震えだす。私は自然とナツの手を握りながら後ろに下がっていた。
「儂は忘れられとうなかっただけだ…!儂に護られていることすら忘れている...アイツらが悪い!!アイツらが...、アイツらが!!!」
男の髪が白く、長くなっていく。周りがより冷たくなり始める。地鳴りがなり始めて上から小さい石が降ってきた。
洞窟が崩れ始めている...!
「…ナツ!逃げるよ!!」
「おう!」
そう言って走り出そうとした瞬間男に腕を強く掴まれる。
「あっ!」
バランスを崩してこけてしまった。走り出していたナツがこっちを見る。
「御主は儂を忘れるな…!!」
逃げられない…!私は神であろう男に手を掴まれていたまま。
ナツは滑りながらも向きを変えてこっちに走って戻ってくる。酷く焦った表情を見た瞬間後ろからとんでもない冷気が襲ってきた。
「…っ、ナツ!逃げ…!」
身体がピシピシと凍りついていく音が頭に響いた。
「カナタ!!!」
ナツに名前を呼ばれた、気がした