第6章 ロキ 「故郷だから」
「いや、そういうのほんといいから」
そう言って手を振りほどいて早歩きになる。
するとあの男の人はまだ追いかけてきた。
「そんなこと言って1人でこんなとこ来たんでしょ?なんか悩みあったんじゃないの?聞くよ、俺」
そう言われて私はクルッと振り返った。
「……ほんと?」
「……うん。」
男の人は少し目を見開いてからにっこり笑った。
居酒屋について私はジュースを頼んでからロキさんの愚痴を言い始めた。
「酷いね。その人絶対カナタちゃんのことバカにしてる。俺ならそんな事しないけどな〜」
話を聞きながら相槌を打つ男の子は私の手を少し触れるように、そしてそっと握った。
「んと…今手を掴む必要はあった?」
少し身を引き締めて後ろに下がると
「やだな〜。ここまで着いてきてくれたってことはそういう事でしょ?」
と言われてから急に眠気がしてくる。
彼の魔法か?
咄嗟にお酒が入った彼のグラスを叩き割ってその破片を自分の手に刺した
「…いって」
眠気が一瞬で飛んだ私は手を大きく振って流れてくる血を振り払った。そして持っていたお金を全部机に置く。
「お金が必要なら回りくどいことしないこと。正々堂々やれっての」
舌打ちをして私は出口に向かった。
そう、ここは私が昔居た場所。
2年前にロキさんと出会った場所。
こんな居酒屋はなかったけど..
ここの人達は犯罪を犯させてまでも若い人たちにお金を巻き上げさせる風習がある。
いい歳の大人が子供に「貴方が頼り」と言い聞かせて子供もそれを信じる。
それを知ってるからこそここにはもう来たくなかったんだけど…更に悪化してる?
考えていた瞬間ドンッと誰かに当たる。
「ごめ、…ロキさん!?」
息を切らしながら私を睨んでいる。
「カナタ、ここに来ちゃ、ダメでしょ…!」
グッと手を掴まれたが痛みで手を振り払った。するとロキさんは目を見開く。
「…ごめんね。カナタ。君がこんな怪我をする前に来てあげられなくて」
そして男の子の方に向いた。
「君も、前こんな事しないって言ったでしょ」
前にも?
男の子はバツが悪そうに下を向く。
「今日話は聞いてやれない。早く帰りなよ」
ロキさんは男の子にそう言い、私の腰に手を回してバーを出た。