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短編 フェアリーテイル

第4章 ガジル 「どんな時も」


その言葉に力強く頷いた瞬間、カサカサという大きな音が後ろから聞こえてきた。
2人して後ろを振り返るとあの蜘蛛がすぐ後ろに迫ってきている。

この速さでは村を出る前に殺される。
村を出ても人がいるところに行く前に殺される!

怖さに足がもつれそうになるもまた走る。するとお兄ちゃんが私の手を離した。

私の顔を1度見てから下を見てもう一度私を見た。
そして少し上を向いてから目を閉じる。

足を止めたお兄ちゃんに私も続こうとするとお兄ちゃんは自分のペンダントを外して私に付けた。


「カナタ、重いことだけどごめんね。これからは僕たちの命を背負って生きてくれ!……さあ、走って!」


突然言われた言葉に理解できなくて私はまたお兄ちゃんの手を握った。
しかしその手をすぐに離される。
そして背中を押された。


「まっすぐ走って!何が起きてもただまっすぐに!」


その声に私は咄嗟に1人で走り出した。
お兄ちゃんの荒くなった息が聞こえる。


「…うあ、ああああ!!!!」


お兄ちゃんの叫び声。
走りながら後ろを振り返るとお兄ちゃんは私が進んだ道とは外れた右の方へ走っていく。

それに続いて蜘蛛も、魔物も全部お兄ちゃんの方について行った。


「カナタ!ごめんね!!!一緒に生きてやれなくてごめん!!!絶対に、会いに行く!!」


今さっきまで横にいた大好きなお兄ちゃんの声が真夜中の街に響き渡る。


「お兄ちゃ…」


戻りたい、けど私が戻ってどうなるのだ。
お兄ちゃんはきっと逃げ切る。
そして、また会えるんだ。

私は自分にそう言い聞かせてただ真っ直ぐに走った。

ずっと叫んでいたお兄ちゃんの声は、


「あああ!!嫌だぁあ!!!」


と言う言葉で、途切れた。




私は走った。
まっすぐ、どんな道でもまっすぐ走った。
お兄ちゃんに言われた通りに。
コケても、もう走れないと思っても。


いつの間にか私は意識を失ってしまっていた。


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