第24章 ジェラール 「プレゼント」
「あー、待って…!メイクが崩れちゃう!……この後もすぐクソ親父に会うんでしょう?あの人に気に入られてる内は花だから。……頑張っておいで」
そう言って私はシーナさんに背中を押される。私はシーナさんに頭を下げてから化粧室を出た。
それから何年か経ったあとも、化粧室にシーナさんがいる時は必ず一緒にメイクをするようになった。シーナさんは少しずつ、痩せている気がした。それにドレスの露出も激しくなっていた。
「シーナさん…。大丈夫ですか?」
私はメイクをしながら眠りにつきそうなシーナさんの肩を叩く。シーナさんはハッとして顔をブンブンと横に振り微笑む。
「うん。大丈夫よ!……ねえ、貴方はクリスマスは好き?」
唐突にそんな事を聞かれて頭を捻る。
「クリスマスですか……?奴隷の時は気にした事はなかったですし…、今もあまり好きでは無いです。皆、本当に愛している人達と幸せに過ごしているでしょう?」
そう呟くとシーナさんは微笑む。
「そうね。……でも、貴方もきっとその幸せな人に仲間入りした時に分かるわ。クリスマスって好きな人と過ごすにはうってつけなの。……私も昔は好きな人と一緒に過ごしたのよ」
懐かしそうに記憶を振り返るシーナさんは何故か消えてしまいそうな雰囲気を醸し出していた。
怖くなってシーナさんの手を握る。
「……っ、きっとまた会える時が来ます。私も、貴方も、愛した人にきっと……!」
シーナさんは目を丸くしながら微笑む。そして目を閉じてから呟く。
「そうね…。もう少しの辛抱だわ」
何故かもう少し、という期限を表す言葉に違和感を覚えたが彼女の微笑みに私も安堵して別れた。
それから、数ヶ月後。私は男からの話に耳を疑った。
「お前とシーナは仲が良かったな。…シーナが最後にお前を呼んでいる。お前だから許すんだ。アイツの部屋に行け」
心臓がドクンと脈打って苦しくなった。
彼がそう言い終わると同時に私は彼の部屋から走って飛び出して行った。
シーナさん…!最後にって……何!?
私は死に物狂いで走ってシーナさんの部屋に入る。
そこには、薄いベッドに横たわりながら苦しそうにこっちを見て微笑むシーナさんがいた。
目は真っ赤だし、より酷く痩せた気がする。