第15章 ガジル 「決心」
今日もまた遅くなっちまった。
…アイツまた起きてんだろうな。
二重スパイをしている事はカナタの奴には言わないようにしている。
心配するだろうからな。
しかし今日、一段落ついたからアイツの好きな店のケーキを買ってきた。
アイツの笑う顔が目に浮かぶ。
フッと口元が緩んだ。
…何してんだ俺。慌てて口を手で隠す。
………アイツにだいぶ毒されてんな。
まあ、悪くはねえ。
家の前に着いて何故か少し嫌な気配がした。
それを払うように俺はドアの鍵を回す。
ノブを回したが扉が開かない。
なんだアイツ。
鍵開けっ放しとか危ねえだろ。
少し注意しようともう一度鍵を回して扉を開ける。
「おい、カナタ…、カナタ?」
目に入るのはボロボロになったソファ、写真立ての破片や時計の欠片が散らばる床にコーヒーが零れた机。
一瞬頭で何が起きてるのか理解出来なかったがだんだん血の気が引いていくのはわかった。
力が抜けた手からケーキの箱が落ちる。
誰かがカナタを連れ去った。
俺は踵を返して家から出る。
カナタの少し残った香りを頼りに走った。
これがいつ襲われたのかは分からねえが壊れた時計の時間からすると4時間近くが経ってしまっている。
早く行かねえと…。
もう間に合わない可能性だってある。
俺は震える手を抑えながら夜のマグノリアを走った。
着いた先はファントムにいた時にぶっ潰したギルド。
ここにはまだカナタの香りがする。
……覚悟しろや。俺の女に手出した馬鹿共。
何回でも潰しやらぁ。
いや、もうギルド再建も出来ねえくらいにしてやる。
俺は腕を回してギルドの中に入り込んだ。