第14章 𑁍眠り姫と真紅の狼さん / 真田幸村
「って……らしくねー」
「んー……ぅ……」
「あれ、起きたか?」
女に『可愛い』なんて、自分らしくない考えに悪態をついた時、結衣が小さく唸った。
起きたかと思って顔を見れば、そのまま頭を俺の肩に預けてくる。
「っ?!」
「んー…ゆき、む……すぅ……」
びっくりしすぎて、変な声が出る所だった。
結衣は寝惚けているのか、俺の名前を微かに呼び、また寝息を立て始める。
……正直、動揺した。
いきなり名前を呼ばれたものだから、しかも寝惚けて呼ぶなど無防備すぎる。
そして、肩にかかる温かな重みも。
顔が近くなって、愛らしい寝顔が傍にあって。
こんな風に距離が近くなったら、動揺しない方がおかしいと思う。
(っ、それって女として意識してるって事じゃねーか)
ふっと浮かんだ自分の考えに、思わず赤面した。
確かに、やたら目で追うようになった自覚はあるし、可愛いなとか、触れてみたいとか……
そう思っては否定してきたのに。
今ストンと心に落ちてきた感情は、ものすごく素直なものだった。
女として意識してるから、距離が近くなれば動揺するし、それならば可愛いとか思うのにも理由がつく。
女なんて嫌いだったのに、こいつはなんか違うから。
イノシシ女なのになんか目が離せなくて、傍に置きたいと思ってしまう。
……そうか、一人の女として、こいつのこと。
「くっそ……なんだこの敗北感」
なんだか意識していると気づいた自分が悔しくて、逆になんの意識もせず頭を預けているこいつに、若干腹が立って。
なんで俺だけ、こんな動揺しなければならないのかと。
そう思ったら、少しやり返したくなった。
少しは俺の気持ちを解れと……
顔が火照りながらも、思わず結衣の頬に手が伸びる。
「お前のせいだ、全部」
「んー……ぅ………」
「男の前で、こんな可愛い寝顔晒すから」
俺は顔を傾け、結衣の唇にそっと自分のそれを重ねた。
軽く食み、何回も何回も啄む。
その柔らかな部分はとても甘く、ふわふわとしていて、こんな感触は初めてと言ってもいい。
女特有の柔い感じ、ああ…やっぱりこいつも女なんだなど。
ありありと実感したようで、ひどく心が疼いた。