第14章 𑁍眠り姫と真紅の狼さん / 真田幸村
いつからだろう、あのイノシシ女を
『可愛い』と思い始めたのは。
もっと近づいて、触れてみたいと、
そう焦がれるようになったのは。
女は苦手だ、うるせーし。
なのに、あいつの笑顔は可愛いと思う。
なぁ、結衣?
女は苦手だが、お前は少し違う。
きっと、お前だから恋した。
だから……触れたい。
─────その髪に、肌に、唇に
気持ちが真紅に染まって焦れるほど…欲しい
(あれ……結衣?)
ある少しだけ涼しい日の昼下がり。
俺は空き部屋の壁に背中をもたれて、こっくりこっくりと船を漕ぐ結衣を見つけた。
手には本、今まで読んでいたのだろうか。
それが中途半端な頁の所で開かれていた。
俺は静かに近づくと、腰を折って結衣を見下ろす。
どうやら本格的に寝入ってしまっているらしい、スースーと規則正しい寝息が聞こえてきた。
その壁は上手く陽が当たっているから温かいのかもしれないが……今日は気温自体が低めである。
こんな場所でうたた寝していたら、風邪を引くかもしれない。
「っとに、世話が焼けるやつ」
俺は押入から毛布を取ってくると、それを結衣に掛けてやった。
その途端に、体を丸くして無意識に毛布にくるまる結衣。
やっぱり寒かったんだな。
そう思い、思わず苦笑してしまう。
でも……結衣の寝顔を見るのは初めてかもしれない。
俺は結衣の傍に座り込むと、その寝顔をまじまじと観察した。
肌は白くて、まつ毛は案外長く、黒々とした影を落としている。
だが、口は半開き。
桃色のぽってりした唇は薄く開かれ、なんと言うか無防備極まりない。
これだと、信玄様あたりに見つかったら、悪戯されてもおかしくないような雰囲気である。
警戒心もなく、こんな風に眠って……
この城はヤローばかりという自覚はあるのだろうか?
(─────でも、可愛い寝顔)
普段女心が解らないと俺に向かってぷりぷりしてる時とは違い、少しあどけない。
あまりこうしてよく見た事がなかったから……
造形はともかくとして、雰囲気とか少し幼く見える加減が可愛いな、と思った。