第15章 雫と煌めく恋情と / 織田信長
「行くぞ」
「え、でも……!」
「貴様は俺と歩幅を合わせるだけでいい」
そう言って、信長様は歩き始める。
私は反物を両手で抱えるように持ち、信長様は私が濡れないように羽織を少し広げて頭を覆ってくれて……
チラッと目線だけ上に上げれば、端正な顔が間近にあった。
(うー、申し訳ないしかない)
考えれば、天下人を傘にするなんて、私はとんでもない女だ。
それに信長様なら傘くらい誰か貸してくれる、絶対。
はなからそうすれば良かったかなあ。
そんな事を考えながら、また信長様を見る。
信長様は不敵な笑みを浮かべたままだけれど……
その黒く長いまつ毛に、雨粒が付いているのが見え、それがきらきら光っていた。
そして、濡れ始めた黒い髪も。
艶やかなそれに雫が絡んで、煌めいて見える。
少し寒いのか、口から吐き出す吐息が白曇りして、凍えそうな唇も、首筋を流れる雨も……
────なんか、綺麗
「……射抜かれそうだな」
「え?」
「貴様の視線に」
「っ……ごめん、なさい」
思わず見惚れてしまっていたのに気づき、私は慌てて視線を逸らした。
だって、信長様は綺麗でカッコイイ。
ずっと見ていたくなるくらいに。
こんな人が私の彼氏だなんて、なんか……本当に夢みたいだ。
すると、信長様は私の方に顔を向ける。
濡れた笑みはいつも以上に色っぽくて、顔が赤くなるのを止められない。
「謝ることはない。貴様は」
「っ」
「────俺だけを見ていろ、いいな」
啄まれた唇。
それは冷たいのに熱くて、雨と金平糖の味がした。
こんなの、ずるい。
私は、最初から信長様しか見えていないのに……
もっともっと、好きになってしまう。
「あ、当たり前ですっ……!」
あまりにカッコよすぎて眩暈までする。
城までこのままなんて、私死んじゃうかもしれない。
でも、ずっとこのままでいたい。
貴方の近くで……ずっと。
少しだけゆっくり歩けば、それに合わせてくれる信長様が愛しい。
そんな逢瀬の締めくくり。
雨に濡れた貴方の体温が私に溶けて……
滴る雨の冷たさも感じないくらい、心の恋情が熱く焦がれていった。
雫と煌めく恋情と
了