第13章 無敵の甘いモノ、頂戴? / 徳川家康
────ま、いいか。食べてる姿も可愛いし
一人で納得し、茶を飲む。
美味い甘味と茶と、それを幸せそうに頬張る愛しい子。
それだけで心に温かなものが広がり……
乱世という事を忘れ、これが『幸せ』なのかもしれないと、そんな風に思った。
幸せというものからは、かけ離れた人生。
俺は幸せなんて要らないと思っていたし、これからものし上がるために戦ばかりの日々だろうと……
そんなものだと思っていたのに。
この子は、俺の中に無いものをたくさんくれるから。
それは新鮮で、眩しくて、時には目を逸らしたくなるけれど、真っ向から受け止めればとても温かい。
(きっと……あんたそのものが温かいからだ)
そう思えば、口元が緩む。
温かい幸せと、やっぱり温かい結衣。
幸せも、泣きたくなるほど優しいから。
だから、今日は幸せな一日だ。
「うー、もう食べられない……家康はたくさん食べた?」
それから一刻ほど経ったあたり。
ようやく結衣がその笑顔を俺に向け、やっと話しかけてきた。
全く、どれだけ放置すれば気が済むんだか。
俺はくすっと笑うと、結衣のそれこそ餅みたいな頬をみょーんと伸ばした。
「食いしん坊結衣。本当にきな粉餅になるよ?」
「にゃにしゅるの、いえやふ……!」
「食べるのに夢中で俺を放置したお仕置き」
「ん〜っ、ひょんなこと、にゃいお……」
この子は俺と一刻も会話しなかったのに、よく『そんな事ないよ』なんて言えるな。
怒っている訳ではないが、少し意地悪したくなり……
俺は結衣の頬から手を離すと、不敵に笑みを浮かべて問いかけた。
「俺と最後に交わした会話、覚えてる?」
「確か、一緒にいただきますってして……」
「その後は?」
「……会話してないかも」
「ほら、食べるのに夢中になってたでしょ。だから、やっぱりお仕置き」
「うっ……ごめんなさい」
結衣がちょっと眉を下げて、本気でしょげてしまったので、なんか苦笑してしまった。
だけど、やっぱりお仕置き、かな?
俺はそっと結衣の耳元に唇を寄せ……
その仕置きの内容を話してやる。
それはつまり、
─────俺でも食べられる、
この世で最も甘い『甘味』を味わうこと