第2章 夜風に戯れた告白を / 明智光秀
夜風が頬を掠める。
空には月が浮かび、俺達を照らしているが⋯⋯
その月に照らされた結衣の顔は、どこか女の匂いを漂わせていて。
「⋯⋯酔っ払いの戯言だな」
俺はそう返すのが精一杯だった。
だが、結衣は何故か怒ったように眉を寄せ、唇を尖らせて物申す。
「戯言じゃないです、すきです」
「お前が俺の事をか」
「はい、すきです」
「⋯⋯」
「すきです」
「分かったから、もうやめろ」
(⋯⋯戯言にしては本当にタチが悪い)
酔っ払い、無防備な姿で言う台詞ではない。
そんな事を言われれば、男はどこか期待する。
そもそも、小娘が俺を好きになる理由がないだろう?
やはり酔っ払って、頭が沸いたか。
俺は手を伸ばし、ぽんと結衣の頭を撫でると、いつものように不敵に言葉を返した。
「今の状態でその言葉を信じる根拠がないな」
「むーー⋯⋯」
「それとも、口づけたり色々されても俺ならいいのか、小娘」
「⋯⋯はい」
すると、結衣は俺に向かって目を閉じる。
顎を少し出し、それは『口づけてくれ』と言っているようで、思わず心臓がドクリと言った。
⋯⋯本気なのか、結衣。
酔っ払っての戯言ではなく、冗談でもなく。
俺に口づけてほしいと、目を閉じるのか。
こんな大胆な結衣は見たことがない。
いつもふにゃふにゃ笑い、意地悪すれば真っ赤になって怒り、色気もない小娘なのに。
(⋯⋯何故か、煽られる)
そっとその頬に手を当てると、白い肌がぴくっと震えた。
柔らかい、引っ掛かりなど何も無い滑らかな肌。
きめ細やかな絹地のようで、きっと全身がそうに違いない。
そんな事を考えている自分にも驚く。
俺は⋯⋯間違いなく今の瞬間は、結衣を『女』として見ていることに。
「────結衣」
俺はゆっくり顔を近づけ⋯⋯
その"額"に唇を押し当てると、結衣はぱちくりと目を見開いた。
「光秀、さん、なんで⋯⋯」
「それは一番大事な時に取っておけ」
「っ⋯⋯」
「少なくとも、今ではない筈だ」
結衣は少し切なげに再度前を向く。
そして、また俺の肩に頭を乗せて⋯⋯
繰り返し、繰り返し、同じ台詞を吐いた。
「すきです、光秀さん」
「⋯⋯そうか」
「すきです」
「ああ」
「すきなんです」