第2章 夜風に戯れた告白を / 明智光秀
「んふふ〜みつひで、さん〜」
「だいぶ酔っ払っているな、結衣」
「酔っ払って、ない、れすっ⋯⋯!」
顔を真っ赤にさせた結衣を連れて、広間を出る。
今日は宴が執り行われているが、結衣は酒に弱いと言うのは皆が承知だ。
結衣も勧められるがまま、ぱかぱかと酒を煽り⋯⋯
気がつけば、べろべろに酔っ払っていた。
(このような無防備な姿は晒すものではない)
運良くなのか運悪くなのか、今宵は世話を焼く秀吉が居ない。
遠方の大名に会いに行っているからだ。
だからと言って俺が世話を焼く義理も責任もないが、この小娘は見ているとどうも世話を焼きたくなる。
どこか抜けていて、危なっかしい。
⋯⋯まあ、それは言い方を帰れば美点なのかもしれないが。
「少し夜風にでも当たれ、水を飲むか?」
「要らない、れす、もっと」
「酒は駄目だ、泥酔しているからな」
「ええ〜私は、そんなに、弱くにゃいれすよ」
「すでに呂律が回っていないだろう」
結衣を庭の縁側に座らせ、俺も隣に座る。
新緑の季節とはいえ、夜はまだ風が冷たい。
ずっと当たっていれば風邪をひくかもしれないが、酔いを冷ますのには丁度いい冷たさだ。
結衣は俺の肩に頭を乗せ、小さくため息をついた。
小さな頭の程よい重みと体温。
それらは、どこか俺の心をざわつかせる。
このような小娘、女として意識しているつもりはない。
ない筈だ、と思いたい。
そんな事を思っていれば、また結衣は口を開いた。
「⋯⋯光秀さん、今思ってること、言っていーですか」
「ああ、構わない」
「なら、言いますからこっちみてください」
結衣がそう言うので、俺は小娘の方に顔を向ける。
すると、結衣もこっちを見て、なんだか蕩心したような顔つきでぽつりと言った。
「すきです」
(⋯⋯は?)
「聞こえましたかー?」
「タチの悪い冗談は聞こえたが」
「じょーだん、じゃないですよ」
「⋯⋯」
「ならもっかい⋯すきです、光秀さん」