第12章 𑁍蒼色マリアージュ《蜜愛編》/ 伊達政宗
─────いつの間にか、
窓の外には、月が浮かんでいた
『月が空にある内は、帰す気ないからな』
初めて結衣を抱いた日、そんな事を言ったなと、月を見上げながら思った。
今じゃ月が沈んで太陽が昇っても、どこにも帰してやる気は無い。
こいつの帰る場所は、俺の隣一択だ。
「……眼帯、外し忘れてたな」
いつもこいつとの閨では外している眼帯。
今日は外していなかったことに気が付き、どれだけ余裕が無かったかを物語る。
改めてその紐を解けば、俺の弱い部分が顔を見せた。
そこには、映す瞳はもう無い。
だが……不思議なことに、こいつの笑顔だけは『ここ』にも思い描けるんだよなぁ。
ふっと笑みを漏らし、改めて結衣を見る。
腑抜けたあどけない寝顔が可愛いな、と。
心に何万回と浮かんだ単語が、今宵も胸の中を占めていたのだった。
***
「結衣、着いたら一報くれよ?」
「うん、解ってるよ、秀吉さん」
「俺の心配はしないのか、秀吉」
「うるさい、今は妹の心配だけさせろ」
秀吉さんと政宗のやり取りを聞いて、思わず笑ってしまう。
すっかり旅支度を整えた私は、城門で秀吉さんに見送られていた。
今日は政宗と奥羽に向かう日だ。
政宗の政務も私の仕事もケリがついたし……
やっぱりそれは予定通り、睦月の頭になっていた。
秀吉さんは私をものすごく心配していて。
今日はお弁当まで持たせてくれて、これは俺の役割なんだよと政宗のお弁当と被ってしまったり。
安土を旅立つ日も、とっても平和だ。
あれから、私は若旦那さんにフラれた。
政宗の御殿を訪ねてきた若旦那さん。
あの求婚はなかった事にしてくださいと、笑顔で言ってきた。
きちんと返事をしようとしていたから、びっくりしてしまうと…若旦那さんはこう言ったんだ。
『結衣さんと妻は似ていると思っていたけど、あの日茶屋に怒鳴り込んでいった結衣さんを見て、全然似ていないなと思った。だから……私はやはり妻の方がいいようです、ずっと愛していこうと思います』
きっと若旦那さんの奥様は大人しい方だったのだろう、そして私に気を遣ってくれたのだと言うことも感じた。
とってもいい人だから、幸せにしてくれる女性が現れるといいな。
そんな事を、私は思った。