第11章 蒼色マリアージュ《疑惑編》 / 伊達政宗
「結衣……」
「まさ、む…んっ……!」
名前を呼んで、角度を変えてまた噛み付く。
結衣は息を止めているのか、顔を真っ赤にさせながら、泣いてるみたいに瞳が潤んでいって。
やがて、結衣が強い力で俺を押し返した。
敢えてそれに任せて離してやれば……
結衣は息を荒らげながら俺を見つめてきた。
「な、なんで、いきなりこんな……!」
「……嫌なのかよ」
「嫌じゃないけど、だって」
「だって?」
「っ……」
結衣が目を見開く。
何に驚いてるんだよ、もう……
─────解らないことばっかりだ
「お前、先に帰れ」
「え、政宗?」
「気をつけて帰れよ」
俺はその場に結衣を残し、立ち去った。
結衣は追いかけてくる事もせず……
俺は歩きながら空を見上げ、嘲笑が漏れた。
嫉妬、なんて無縁だった。
結衣を信じているし、気持ちは揺らがない。
何があっても、それは崩れない。
……はずだったのにな?
何故か俺ばかり嫉妬しているのが癪で。
結衣も同じ気持ちを味わえばいいのにって……
馬鹿みたいに思った。
切れたのは理性か、
俺の自尊心か、いや……
堪忍袋の緒か?
なんでもいい、
とにかく結衣も同じ気持ちを。
俺と同じように、
嫉妬してくれ、真っ黒になるほど。
「あれ、政宗様?」
「凛、久しぶり」
「珍しいですね、どうしました?」
「昔のよしみで頼みたいことがある」
***
「本当にありがとうございました」
「いえ、結衣さんが頑張ってくれたからだ」
「喜んでもらえて良かったですね!」
「そうだね、いい祝言になるだろう」
それから数日後。
私は若旦那さんと一緒に白無垢と色打掛を納品し、ほっと一息をついた。
刺繍を入れたことで、先方はとても喜んでくれて……
やっとこの大仕事も決着がついた。
あとは……政宗と仲直りしなきゃな。
あの日から、政宗とはすれ違っていた。
むしろ、御殿に帰ってきてるかも解らない。
それに……妙な噂を聞いてしまった。
『伊達政宗は織田の姫と別れ、今は違う町娘と恋仲になった』