第11章 蒼色マリアージュ《疑惑編》 / 伊達政宗
若旦那が不思議そうに首を傾げる。
結衣からは『大きな仕事を請け負った』とは聞いていたが、こいつ絡みだとは聞いていない。
つまり、この忙しかった数日……こいつと共に居たという事か。
だから、あんな噂が立ったのか?
だが、それだけじゃ『別れた』となるには少し理由が弱いような。
俺は敢えて不敵に笑むと、話を合わせるように少しばかり『嘘』をついた。
「いや、迎えも兼ねて、あんたに聞きたい事が」
「そうでしたか」
「城下中に噂が広がってるの知ってるか、俺と結衣が別れて、結衣はあんたと恋仲になったと」
「ああ……存じておりますよ」
すると、若旦那は困ったように笑う。
この反応……正直判断しにくい。
その噂を広めたのがこいつなら、もう少し過敏に反応しても良さそうだが。
「……政宗」
その先をなんて聞こうかと考えていると、若旦那が来た廊下の奥から結衣が姿を現した。
久しぶりに見る結衣に、気持ちが少しだけ上向きになる。
だが、結衣は俺と視線が合うと、なぜか逸らしてきて。
しかも、なんだか顔が赤いような気がするのは気のせいだろうか。
「……結衣?」
「っ……な、何でもない」
結衣はしどろもどろで答え、やはり視線を合わせようとしない。
結衣は嘘が下手だ、『何でもない』わけがないと一発で解る。
そもそも、何が『何でもない』なのだろう、すでに何かを意識している証拠ではないか。
……こいつと何かあったのか?
顔を赤くするような『何か』が。
メラっとまた心に嫉妬の炎が灯る。
ここのところ数日、何度も劣情に呑まれそうになった。
それでも堪えてきたのは、そんな自分に負けたくないからだ。
「用はそれだけなんだけどな。……帰るぞ、結衣」
「う、うん……」
俺は結衣の手を引く。
結衣は遠慮がちに返事をして、俺の隣を歩き出した。
が、玄関から出る時、結衣は少しだけ振り返るような仕草を見せたので……
俺も一緒になって振り返れば、若旦那がなんとも言えない寂しげな笑みを浮かべていた。
しかし、目の奥には恋情が燃えてる気がして。
その顔を見ていたくなくて、俺は足早に結衣をそこから連れ出した。