第11章 蒼色マリアージュ《疑惑編》 / 伊達政宗
「旦那様、お客様がお見えになっています。お通ししますか?」
「どなただろうか」
「それが……伊達政宗様と申しておりまして」
(え、政宗……?!)
若旦那さんに迫られて心臓が最高潮にバクバクしている中、政宗の名前を聞いた瞬間一気に意識が現実に引き戻される。
確か、政宗には若旦那さんとの仕事だとは伝えていなかったと思うから、私を迎えに来たわけではないだろう。
じゃあ……なんで政宗はここに?
すると、若旦那さんは私からすっと体を離すと、少し襟を直す仕草を見せながら立ち上がった。
「お迎えかな、相変わらず仲の良い」
「あ、いや、政宗は……」
「仕事は、今日この辺にしておきましょう。刺繍の仕上がりを楽しみにしているよ。お返事は…また聞かせて」
若旦那さんは完成に政宗が私を迎えに来たと勘違いしているようで、先に行っていますと部屋を出ていった。
残された私はぽかーんとしてしまって、思わず触れられた頬を押さえて唇を噛んだ。
『私の元に嫁ぎませんか、貴女が好きだ』
あんなにストレートにプロポーズされて、ドキドキしない方がおかしい。
それはもちろん、好きな人じゃなくてもだ。
顔が熱い、ものすごく火照ってる気がする。
あんなにストレートに想いを告られたことって他にあっただろうか。
『───俺の"恋人"になれよ、愛してる』
その時、何故か政宗の顔が浮かんで……
私は酷く罪悪感を覚えて、思わずぽつりと『ごめん』と呟いたのだった。
***
「お待たせしてすみません」
玄関先で待たされていると、例の若旦那が奥の廊下から姿を見せた。
結衣と噂になっている人物。
噂の出処はこの男なのだろうか、とにかく腹立たしいと言ったらない。
(……まあ、容姿はいい男だが)
さらりとした黒髪に目鼻立ちもはっきりしていて、所謂美形と呼ばれる部類なのだろう。
それでいて、こんなに大きな問屋の若旦那。
結衣に目をつける目利きの良さは褒めてやるが、それでも譲ってやる気は毛頭ない。
「あんたに聞きたいことがあって訪ねたんだが」
「あれ、結衣さんのお迎えでは」
「結衣?」
「はい、今日も打ち合わせをしていたので……違いましたか?」