第11章 蒼色マリアージュ《疑惑編》 / 伊達政宗
「結衣さん、疲れていない?」
「大丈夫ですよ、もうひと踏ん張りですし」
「頑張り屋の貴女は素敵だ」
「っ、ありがとうございます」
いきなり褒められたことにびっくりし、つい声が上擦ってしまった。
穏やかに笑む若旦那さんは顔の造形も綺麗だし、少し色気があって、女の人は放っておかないだろう。
それに若いのに大きな問屋を一人で動かして、さぞかし有能な人なんだろうなあ。
そんな風に思っていると、若旦那さんはそっと私の手を優しく握ってきた。
(え……?)
思わずキョトンとしてしまうと、若旦那さんは静かな声で話し出す。
少し……寂しそうな声で。
「貴女と亡くなった家内が似ていると話しましたよね」
「はい、雰囲気が似てるって」
「家内は齢十八で私と夫婦になり、二十二でこの世から去った。とても頑張り屋で素直な……可愛い妻でした」
「そう……だったんですね」
その切なげな表情に、言葉が詰まった。
大切な人を失い、辛かったんだろうな。
そう思っていれば、若旦那さんは私を見つめてきて、その眼差しに私は目を見開く。
どこか熱っぽく、懇願しているような眼差しだったからだ。
「もう誰も娶るまいと思っていたけれど……貴女を知り、一緒に仕事をする内に惹かれる私がいた。もし、貴女さえ良かったら…私の元に嫁ぎませんか」
「えっ……」
「幸せにします、貴女が…好きだ」
(ちょ……ちょっと待って……!)
頭が追いついていかない。
私今告白されて、プロポーズされた?
待って待って、なんでこんな事に?
頭の中がパニックになって、真っ白になる。
私には政宗が居て、もう祝言も決まっていて。
それなのに他の男の人に求婚されちゃうとか!
私が俯いてしまうと、若旦那さんは私の頬に手を当てそっと上を向かせる。
何故か触れられた頬が、ジンジンと熱かった。
「どうだろう、結衣さん」
「そ、そう言われても、私は政宗が居ますし、そのっ……!」
「それは承知してる。でも、諦めきれないんだ」
「っ……」
「結衣さん……」
次第に若旦那さんの顔が近づいてくる。
私は体が硬直してしまい、動くに動けなくて。
このままじゃ、キスされちゃう……?!
思わず身を引くようにして、ぎゅーっと目を瞑った時。
襖の奥から声が掛かり、若旦那さんの動きが止まった気配がした。