第11章 蒼色マリアージュ《疑惑編》 / 伊達政宗
秀吉は何かを思案するように小さな声で唸ったが、やがて小さく息をついた。
そして俺に向かって、苦々しく口を開いた。
「結衣に惚れてる仕事の得意先……厄介だな。とにかく、何か理由があってあんな噂になってるんだろうから、結衣にも気をつけるように言ってやれ」
「……そうだな」
平常心を保って、俺は秀吉に答えた。
だが、正直内心は複雑だった。
俺と結衣の仲は揺るがないものの筈なのに、噂とは言え横槍が入ってきたこと。
もう、正式に結ばれるのも間近で……
今が一番幸せな時のはずなのに。
結衣は俺のものだ。
横から入る隙なんてないし、誰にも奪われるつもりはない。
だから、その噂も気に入らない。
俺と結衣が別れた……なんてある訳がないのだから。
またドス黒い炎が胸の内にゆらりと灯る。
それは瞬く間に燃え上がり、俺を支配しそうになっていた。
────『嫉妬』『ヤキモチ』
そんな名前の醜い劣情に呑まれる寸前。
俺はそれに必死に抵抗し、まだ『自分』を保っていたのだ。
***
「じゃあ、ここに金糸で刺繍ですね」
「また結衣さんにお願いする形になるけど、大丈夫かな」
「まあ、そのくらいなら」
その日も呉服屋を訪れていた私は、奥の部屋で若旦那さんと打ち合わせをしていた。
頼まれた大掛かりの仕事、それはある武家の娘さんの祝言に向けて、白無垢と色打掛を作ることだ。
私自身、小袖や羽織はいくつも作ってきたが、白無垢や色打掛なんて初めて挑戦する。
とても大切な場面で身に纏うものだから、絶対妥協はしたくなくて……
生地選びなども、武家様と仲介をしてくれている若旦那さんと相談しながら徹底的にやった。
もうちょっとでそれも完成すると思った矢先。
もう少し華やかにしたいと武家様から申し出があった事で、どうするか……と相談している所なのだ。
(刺繍をすると3、4日くらいかな、また政宗との時間がなくなるなぁ……)
私は悟られないように、少しため息をつく。
正直、一緒に暮らしているのに、政宗とは全く顔も合わせていない。
当然の事ながら触れ合う時間もなく……
政宗不足と言ってしまえばそうなんだけど、これが終われば政宗と青葉城に行く。
幸せになるために踏ん張り所だと、そう思った。