第11章 蒼色マリアージュ《疑惑編》 / 伊達政宗
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公務に追われる俺の元に秀吉が訪ねてきたのは、それからしばらくしての事だった。
話があるなら軍議の時にでも言えばいいのに、御殿まで訪ねてくるなんて、よっぽどなんだろうか。
「政宗、失礼するぞ」
「改まってどうした、秀吉」
険しい顔をした秀吉が自室に入ってくる。
いつもの遅刻の小言を、御殿まで来てするはずはないし……一体何事なのだろうか。
秀吉は俺の目の前に座ると、何故か睨むような視線を向けてくる。
そのまま重々しく口を開けば、何とも突拍子もないことを尋ねてきた。
「お前、結衣とどうなってるんだ。青葉城に帰ったら祝言を挙げるんだろ?」
「どうなってるもなにも、その通りだが」
「じゃあ、なんで城下中にあんな噂が広がる?」
「噂ってなんだよ」
俺が秀吉に聞き返せば……
今城下中に、俺と結衣のとんでもない噂が広がっているという。
それは……
『伊達政宗は織田の姫と別れ、織田の姫は新たに呉服問屋の若旦那と恋仲になったらしい』と。
「はぁ……?なんでそんな事になってる」
「俺がお前に聞いてるんだ、政宗。お前……まさか結衣に嫌われる様なことをしたんじゃないだろうな」
「そんな訳ねえだろ」
「今日、結衣はどうした。最近一緒にいる姿を全然見ないが」
「結衣は今すげえ忙しいんだよ、針子の仕事が」
今結衣はとても重要な針子の仕事を抱えていて、寝る間も惜しんで仕事をしている。
一緒に御殿に住んでいても、顔を合わせない日が続いていて……
心配はしているけれど、一段落すれば大丈夫だろうと俺自身楽観的にしていた。
だが……それで一緒に居ないことが『別れた』とまで発展しているのは何故だろう。
しかも呉服問屋の若旦那と恋仲に、なんて。
どこからそんな根も葉もない噂が出てきたんだ?
「噂になってる呉服問屋の若旦那って言うのは誰だか知っているか」
「結衣の仕事の得意先だ。そっちは……まあ少し問題ありかもな」
「どういう意味だ」
「一回だけ会った事があるが、多分結衣に惚れてる」
俺は頭が痛くなって、思わずこめかみに指を当てた。
まさか、あの男が噂の種をばらまいたのだろうか。
それにしても、城下中に広がってるんだろ?
もっと何か、種に水を与えるような事が……