第11章 蒼色マリアージュ《疑惑編》 / 伊達政宗
(こいつ……)
ニコニコとしているようで、目の奥が笑っていない。
人の良さそうな雰囲気を醸し出しているのに……
どこか激しい感情を隠しているような、そんな目をしている。
─────結衣に惚れてんのか
それを何となく察した。
結衣は鈍感だから気づいていないだろうが……
依頼のついでに茶屋に誘い、あわよくば…などと考えての行動なのだろうか。
「じゃ、帰るぞ、結衣」
「うん!それじゃあ、失礼します」
「ええ、また宜しくお願いするよ」
軽く一礼し、背中を向ける若旦那と呼ばれた男。
雑踏にその姿が消えるのを見てから、俺は結衣の手を引いて歩き出した。
結衣は何食わぬ顔で、いつものように俺の隣を歩く。
俺がこんなに面白くないと思っているなんて、全く気づいていないようだ。
「あいつ、どんな奴なんだ?」
「え?」
「随分身なりもいいし、あの歳で若旦那ってことは随分やり手なんだろうなと」
さりげなく探りを入れると、結衣は少し口元に笑みを浮かべながら、柔らかな口調で言葉を紡いだ。
「お父様が早くに亡くなって、随分早くに家業を継いだんだって。奥さんいたらしいけど、病気で若くして亡くなっちゃったとか」
「なるほど」
「奥さんと私、雰囲気が似てるんだって。とってもいい人だよ」
「……」
(……雰囲気が似てる、ねぇ)
『いい人』とは時にとても危なかったりする。
良い様に見せたいと振舞ってる可能性もあるから…
それに、あの目の奥に感じた感情は恋慕で間違いないだろう。
亡くした妻に似ていると言うこいつに、影を重ねているのだろうか。
結衣が心変わりするなど思ってはいないが、それでもいい気分はしない。
と、言うか、ものすごく不愉快である。
町人が言ってた『仲良さげ』はどの程度だったのだろうか。
もしこいつに触れたりなんて事があれば、今すぐ斬ってやりたい衝動に駆られた。
────格好悪い、嫉妬かよ
その二文字をはっきり自覚し、心の中を覆う真っ黒な感情に名前がついた。
でも表には出せない、そんなの。
俺にも自尊心はある、こいつのまえでは格好良い男で在りたいと……
俺は結衣の小さな手を握り締めて、夕空に一つ。
己を落ち着かせるように息を吐き出した。