第11章 蒼色マリアージュ《疑惑編》 / 伊達政宗
瞬時に心が冷えた気がした。
『呉服問屋の若旦那』
……誰だ、誰だよそれは。
「おい」
「え、政宗様?!」
「結衣が居たのはどこの茶屋だ、教えろよ」
─────みっともないほど惚れてる
それはもう自覚するほどに。
俺はあいつを捕まえたつもりだったのに、本当は俺の方があいつに捕まったのかもしれない。
真意もハッキリ解らず、ただすれ違った奴が話していただけの所詮は噂話だ。
それを、何こんなに気にしてる?
こんなの格好悪いのに……
結衣は俺のものなんだよ、と。
酷く酷く内心が乱れている俺が居た。
***
「あれ、政宗……?」
それから、噂の本人である結衣が道の反対方向から歩いてきたのは、茶屋に向かっている時だった。
何やら背の高い男と二人で並んで……
結衣はこちらに向かって笑顔を向けながら手を振り、隣にいる男は俺に軽く会釈をする。
あの町人が言っていたことは本当だったのかと。
ざわりと胸の中に波風が立った。
「迎えに来てくれたみたいなので、ここで失礼しますね」
「そうだね、また依頼させてもらうよ」
「はい、またお仕事お待ちしています!」
二人は何やら会話を交わし、向かい合って互いに頭を下げると、結衣はこちらへやって来た。
男はその結衣の後ろ姿を見ている。
何故かその眼差しが……やたら熱っぽく感じられたのは気のせいだろうか。
「政宗、迎えに来てくれたの?」
「ああ、そろそろ帰る頃だと思ってな」
「あちらがお得意先の若旦那さんなの、着物のお礼にと甘味屋さんでご馳走になっちゃった」
「……そうか、良かったな」
若干ドス黒くなり始める気持ちを引っ込め、結衣の頭を優しく撫でた。
結衣の話だと、得意先に納品に行ったのは本当で……
その礼にと、依頼主が結衣を茶屋に誘ったというところか。
だが、町人の話だと俺と結衣の仲は公認らしいのに、いくら礼でも相手がいる女を誘ったりするのか?
「こいつが世話になったな」
「いいえ、本当に良い仕事をしてくださるので、こちらも毎回頼んでしまって。結衣さんは可愛らしい方ですし、恋仲の貴方が羨ましい限りです」