第11章 蒼色マリアージュ《疑惑編》 / 伊達政宗
お得意様と親睦を深めるのも大事だよね。
そんな風に自分で勝手に納得していたけれど……
考えてみれば、私には政宗という相手がいて。
それなのに、いくらお得意様とは言え男の人と二人きりで甘味屋に行くなんて。
まるでそれは逢瀬なのだから、変に誤解されたって不思議ではない。
なのに、私はそれに気づかないどころか……
─────全く悪気すら感じていなかったのだ。
(そろそろ結衣も帰り道だろ)
午後から結衣と別れ、こちらの政務を一通りこなして終わった夕方近く。
俺は『得意先に着物の納品に行く』と言っていた結衣を迎えに城下を歩いていた。
あいつの針子としての腕はなかなかだ。
だから仕事が山のように舞い込んでくるらしいと、その筋の噂で聞いたことがある。
青葉城に戻ってからも、あいつが好きな仕事を続けられるように、色々整えてやるつもりだ。
────こんな風に一人の女に捕まるとはな
昔の自分は、その日を後悔なく生きれればそれでいいと、気に入ったものは躊躇わず触れて、可愛いものは気持ちのままに可愛がった。
それ故に、色事に関する噂も絶えなかったが……
俺自身誰かと世帯を持ったり、未来を約束したりといった事は今後一切ないし、するつもりもないと思っていた。
それなのに、まんまと囚われた。
もうあいつ以外は目に入らないくらいに。
そのくらい溺愛している自覚はある。
それは、自分でもみっともないと思うほどだ。
「ねえ、さっきの茶屋にいたの、結衣様じゃなかった?」
「え、織田様のお姫様の?」
「そう、呉服問屋の若旦那と一緒に居たような」
その時だった。
すれ違った男女の会話が聞こえ、そこに『結衣』の名前を聞いた気がして思わず振り返った。
耳を澄まして、何とか遠ざかる会話を耳に入れる。
すると、聞こえてきたのは……
「そんな訳ないだろ。織田様の姫様は奥羽から来てる伊達政宗様と恋仲だって、もう公認だろうが」
「でも確かに一緒に居たよ、仲良さげだったし!」
(え………?)
結衣は得意先に納品に言ったんじゃないのか?
茶屋で仲良さげにって……
あいつは今、他の男と一緒にいるのか?