第1章 誘う一線、捕まった花心 / 豊臣秀吉
「あれ、結衣はどうした?」
結衣を抱いてから程なくして……
賑やかに執り行われている誕生日の宴で、政宗が料理を運びながら首を傾げた。
俺と昼間出かけていた事は知っているらしい。
上座に座らされている俺の横に座ると、俺の顔を覗き込んできた。
「秀吉、お前と一緒だったんだろ?」
「うん……まあ、疲れたんだろ」
(……まさか、抱き潰したとは言えねえ)
あれから、気持ちを通わせた結衣と睦み合い、その姿があまりに可愛かったことから、欲情するままに抱いてしまったという。
我ながら馬鹿なことをしたものだ。
勿論『宴に出られなくなったら悪い』と予め謝ってはいたものの、現実にあいつは疲れ果ててしまって今頃ぐっすり眠っている。
……正直、やりすぎた。
すると、蘭丸がちょこまかと歩いてきて俺の横にくると、コソッと耳打ちをしてきた。
「秀吉様……ちょっと言いにくいんだけど」
「うん、どうした?」
「結衣様をあんまり無理させちゃだめだよ、その……廊下まで声が響いていたから」
「っ……蘭丸、ちょっと外で話すぞ」
政宗に変に勘ぐられると厄介だ。
俺は訝しげな表情を浮かべる政宗を置いて、蘭丸と廊下に出た。
結衣と結ばれたのは嬉しいが、まだ誰にも言っていないし、正直言ったら反感買いそうな気もする。
あいつは武将達に可愛がられているから。
そもそも信長様にも許可を取っていない。
なのに……真っ先に蘭丸に気づかれてしまったようだ。
俺は暗い廊下で蘭丸の顔を覗き込む。
そして、小さな声で『牽制』をかけた。
「その話はまだ誰にも秘密な」
「えーっ、秀吉様達が恋仲になったって知ったら、みんな喜ぶ……もががっ」
「声が大きい。そのうち皆には報告するから、少しだけ内緒にしていてくれ、頼む」
「むー……わかりました」
「悪いな、助かるよ」
蘭丸は若干頬を膨らませたが、約束を破るような奴ではないから大丈夫だろう。
だが……声が響いてしまっていたのは予想外だった。
あいつが可愛いから仕方ないと言ってしまえばそれまでなのだが。
(幸せな時間だったしな、本当に)
『帰らないで』と言ったあいつの瞳の奥に、俺と同じ想いを見つけてしまったから、俺も止められなくなった。
『好き』は繋がっていた、それが本当に嬉しい。