第8章 藤色に紅 / 石田三成
「とてもよくお似合いですよ」
「大人っぽすぎないかな」
「そんな事ない、綺麗です…とても」
「……っ、ありがとう」
素直に褒めたのが恥ずかしかったのか、結衣様は少し頬を染めて視線を逸らした。
その表情にまた心を刺激されて、普通を装った『私』がボロボロと剥がれてしまいそうになる。
照れているのは私の方だ、だってあんまりにも綺麗になるから。
─────だけど、目が離せない
私は衝動的に手を伸ばし、結衣様の頬に触れる。
そしてやんわりとこちらを向かせ、しっかり結衣様を見つめた。
「もっと……よく見せてください」
ザァァァァ───…………
少しだけ強い風が凪いで、結衣様の長い髪を揺らす。
その間から、必死にこちらを見つめる結衣様。
黒真珠の瞳はきらきらとしていて、少し濡れたようにも見えて……
自分自身、ひどく眩暈が起きたような気がした。
ああ、欲しくなってしまう、貴女が。
頬にあった手を滑らせ、顎に指を掛けて。
親指で下唇をなぞったら、結衣様がコクリと喉を鳴らした音が聞こえた。
「っ……」
「み…みつな、り、く……」
「────狡い人だ、貴女は」
まるで吸い寄せられるように唇を重ねる。
と、言っても深くは触れ合わずに、軽く啄んで離した。
それでも、ちゅっと甘い音がやたら鮮明に響いて……
カシャンっ!
その次に、結衣様が紅入れを落とした音がした。
結衣様はびっくりしたように目を見開いたけど、私は平然さを保つようにいつも通り笑ってみせる。
「口づけしたら、紅が薄くなってしまいましたね」
「三成、くん、なんで……」
「直しましょうか、結衣様」
私は紅入れを拾い、自分の小指に纏わせた。
そしてそのまま、結衣様の唇に触れる。
すっと線を引くように優しく撫でれば、また結衣様の唇は艶やかに色付いた。
─────同時に、私の心の中も
「っ……ありがとう」
「どういたしまして。……結衣様」
「な、なあに……」
「口づけたことは、どうぞご内密に」
今度は自分の唇に人差し指を押し当て笑む。
夕陽に照らされた結衣様の顔は、いつもより火照って見えて……
それは陽のせいで赤いのか、よく解らなかった。