第8章 藤色に紅 / 石田三成
「結衣様、こちらお土産です」
「お土産?!わあ、ありがとう!」
夕陽が落ちる城の庭で、私は結衣様に小さな木箱を手渡す。
結衣様はそれを受け取り、花が綻ぶように笑った。
今日私は、堺での公務を済ませ帰ってきた。
信長様と秀吉様に御報告を終え、結衣様を庭に呼び出したのだ。
堺には様々な異国の物が売っていて、立ち寄った露店にも沢山の装飾品が並べられており。
その隅に置いてあった紅が結衣様に似合いそうな気がして、土産として買ってきたわけなのだけれど。
結衣様が紅を差す姿はあまり拝見しないが、女性ならばきっと興味はあるに違いないと、そう思ったからこそだった。
結衣様は木箱を開け、中から丸い形の銀器を取り出す。
蓋を開けた瞬間、目を見開き少し驚いたような表情になった。
「綺麗な紅……!色も素敵だね、真っ赤じゃなくて少し桃色がかった感じの」
「結衣様に似合うと思いまして」
「ありがとう〜、でも大人っぽくて私に似合うかな」
「きっとお似合いになられますよ。良かったら今差した姿を見せてくれませんか?」
「うんっ、差してみる」
私達は庭の縁側に座り、女中に頼んで手鏡を持ってきてもらった。
結衣様は紅の入った銀器から、小指に少しだけ紅を取ると、手鏡で自分を映しながらゆっくり唇に乗せていく。
何だかその仕草が妙に色香を帯びて見えて、トクリと心ノ臓が音を立てた。
(普段見ないお姿だからか……?)
結衣様の"女"としての姿を垣間見た気がして、ソワソワ落ち着かなくなる。
普段は可愛らしい印象だし……
化粧をする姿をあまり見たことがないからか、急に色っぽくなる感じが心に波風を起こしている感じだ。
「こんな感じかなー、三成君どう?」
すると、結衣様は紅を差し終わったようで、無邪気に私の方に顔を向けた。
その瞬間、結衣様に視線が釘付けになる。
(っ……可愛いな、とても)
いつもの素朴さとは違い、少し艶っぽい印象。
『大人の女性』を醸し出している雰囲気の中に愛らしさもあって、その紅は結衣様にとても良く似合っていた。
しまった、予想外に綺麗になってしまったと。
照れて顔を背けたくなるも、私は必死に『普通』を装って笑みを作る。