第6章 ある朝の攻防 / 豊臣秀吉
「っ……秀吉さん、起きて!」
私は居ても立ってもいられず、秀吉さんの腕を無理やり振りほどくと、向き合って両頬を叩いた。
と言うか、手のひらで頬を挟んだら、ぺちっと間抜けな音が鳴った。
すると、秀吉さんはすぐにその形の良い二重を開いて、覚醒する。
ふわふわとしながら私を見つめていたが、秀吉さんはすぐさま私を抱き締めた。
覆い被さるように体勢を変えては、まるで強請るように艶っぽい声色で囁く。
「ん〜…結衣……もっと」
「っ……ちゃんと起きて、秀吉さんっ」
「ん……?」
私が腕の中でもがくと、秀吉さんは今度こそしっかり覚醒したらしく、パチクリと瞬きをして私を見つめた。
「結衣、おはよう」
「秀吉さん、なんの夢を見てたの?!」
「え?」
「い、いやらしい夢を見てたでしょ、絶対!」
私が真っ赤になって問い詰めると、秀吉さんは目線を泳がせ、やがて小さく頷く。
『うん、見てたな』とあっけらかんと言われてしまい、私は思わず絶句してしまった。
「昨夜のお前が可愛すぎて、夢に出てきてた。もしかしたら閨の続きかもなあ」
「続きかもなぁって…もしかして、秀吉さん満足してないの?」
「いや、してるよ。でも」
ちゅっと音を立てて、軽く唇を啄まれる。
背後の障子から淡い光が差し込んで、少し照れくさそうに笑む秀吉さんを優しく照らしていた。
「お前を愛してるから、何回でも抱きたいんだよ。こんな風に思えるのは、お前だけだ。もっと甘やかして、可愛がりたい」
(っ……こんなの反則だよ)
そんな顔で言われたら、愛しさで胸が爆発してしまう。
ストレートに『何回でも抱きたい』とかさ。
しかも照れたように笑って、私の心をどれだけ掻き乱ぜば気が済むのか。
私だってたくさん愛されたい。
時が許す限り、もっともっと。
「……結衣?」
私が首に腕を回してぎゅーっと引き寄せると、秀吉さんは私を見下ろしながら不思議そうに言った。
もう、カッコイイのにちょっと可愛い。
そして、言い方はド直球で。
秀吉さんはそんな人だった。
……だから、もう完敗だよ。