第4章 熟した果実の甘い嫉妬 / 織田信長
────ふわりっ
「っ……!」
急に背後から抱きすくめられ、ドキリとした。
逞しい腕と温かさと、いつも嗅いでる大好きな匂い。
そのおかげで、振り返らなくても誰だか解る。
「信長、様……」
「今戻った、宴は続いているがな」
「……」
私が居ないのを知って、抜けてきてくれたのかな。
それは嬉しいけれど……少し気まずい。
黙って俯いていれば、信長様は私の視線の先に自分の手を持ってくる。
その大きな手のひらに、何か握られている事に気がついた。
「俺の手の中を見ろ、結衣」
「これは……?」
「貴様への土産の品だ」
「え……」
信長様からそれを受け取り、まじまじと見る。
銀製の小さな小物入れ。
蓋を開けた途端に香った花蜜のような匂い、私は思わず目を見開いた。
「この匂い」
「俺の体から香った匂いだろう、この練り香の匂いだ」
信長様は私を抱き締めたまま、耳元で説明してくれた。
遠方へ公務に赴いた時、寄った店でこれを発見し。
私に似合いそうな香りだと思い、お土産に選んでくれたそうだ。
そこで、信長様は店主にこう言われたと言う。
「体に付けると、体温で温められて匂いが変化すると。変わった匂いが貴様に似合うか確かめる為に、俺は自分自身で確かめることにした」
「じゃあ、信長様が匂いをさせてたのって……」
「首筋で試したからな。さすれば予想外に濃い香りで、正直風呂に入ってから貴様に会おうと思ったくらいだ」
「私が疑うと思ったから、ですよね?」
「無論だ」
それでも、信長様は私に会うことを優先させた。
しばらく離れていたから、真っ先に私の顔を見たいと思ってくれたらしい。
だが、案の定疑いの目を向ける私に……
信長様は自分でも驚くくらいショックを受けた、と言うのが真相だった。
そのまま私の肩に顎を乗せる信長様。
抱き締める腕にも力が込められ、なんだか拗ねた子供みたいな口調で話し始めた。