第4章 熟した果実の甘い嫉妬 / 織田信長
────信長様と喧嘩をした
信長様はいつも私の上を行く人で、考えもすぐに読まれてしまって、喧嘩の種すら出来なかったのだけど。
信長様が私の『彼氏』になり、案外可愛い人なのだということが解ってきて……
今思えば、今回の喧嘩はそれが原因だった。
信長様の誕生日だと言うのに、私達はすれ違ったままで。
だけど、真相を知ればたわいない。
そんなある日常の思い出話。
***
(……やっぱり、喧嘩なんかするんじゃなかった)
天主で何度目かのため息が出る。
今頃は信長様の誕生日の祝宴が、最高潮に盛り上がっている頃だろう。
私も参加はしたが、気まずくて早々に抜けてきてしまった。
理由は……察しの通り、信長様と喧嘩中だから。
喧嘩の理由はたわいない事だった。
少し遠方へ公務に出ていた信長様が、何やら甘い匂いをさせて帰ってきたのだ。
どう嗅いでも、女物の香りで。
よっぽど近くで触れ合わなければ、こんなに強く香りは残らないだろう……と。
問いかける私に、信長様は少し機嫌の悪そうに言った。
『貴様、俺を疑っているのか?』
私はただ、その匂いの理由を知りたかった。
でも、信長様は自分が他の女と何かあったと、私が疑っていると。
そう思って、機嫌を損ねてしまったらしい。
そして、理由を聞いても信長様は言わなかった。
……正直、疑うのは当たり前だと思う。
「……なんで理由を隠すのかな」
私は天主の張り出した所から星空を見上げ、小さく息をついた。
あんな香りをさせてきたら、誰だって理由を知りたがるし、それを隠されればなお気になる。
言いたくない理由なんて、何かあったんじゃないかって、そうなるのは自然だと思うのだけれど。
────でも、寂しい
せっかくのお誕生日、一番傍で祝いたかった。
贈り物だって準備していた、とても大切な記念日なのに……こうなってしまうなんて。
(……ごめんなさい、貴方を疑って)
心の中でぽつりと呟く。
信長様の愛情に、偽りはこれっぽっちもない。
私だけを一途に愛してくれていて、他の人が入る隙はないと私が一番知っている。
だから……疑われて、信長様は傷ついたかもしれない。
早く直接謝りたい。
こんな風にすれ違ったまま誕生日が終わるのは悲しいよ。
そう思い、視線を下げて俯いた。
……と、その時だった。