第3章 いろはに恋を / 伊達政宗
そして、依頼品を無事に得意先へ届けた後。
結衣を城に送って行こうと城下を歩けば、城下は夕方独特の賑わいを見せていた。
夕餉が近いのか、飯の炊く匂いが漂っている。
露店も店じまいといったところだろう、片付ける姿を横目で見ながら……
俺は先程から感じている妙な『視線』に、思わず眉を潜めた。
(一人…だな、殺気はないが妙に……)
その視線に目を動かせば、少し離れた所からこちらを見ている男の姿に気がつく。
ずっと俺達を付けてきたのだろうか。
尾行しているつもりなのだろうが、簡単に姿を確認出来てしまう辺り、"その手"の専門家ではないのだろう。
また、手に刃物等武器を持っている様子もない。
ただの町人か。
それで、この熱視線ってことは……
「……こいつに恋煩いの男ってところか」
「ん?政宗なんか言った?」
「いや、なんでも」
百発百中、結衣に好意を寄せていると見て間違いないだろう。
それで後を追って、声をかける機会を伺っているのかもしれない。
結衣は姿は確認出来ないと言っていたけど、これだけ解りやすく尾行されれば気が付きそうなもんだが。
……まあ、結衣の鈍感な所も美点ではあるけれど。
俺はまた少し視線を動かし、裏路地に入れる曲がり角を見つけると、おもむろに結衣の手を引いた。
「政宗、どうしたの?」
「結衣、ちょっとこっちに来い」
「えっ……」
裏路地に結衣を誘い込む。
ああいう輩を諦めさせるには、"これ"が一番手っ取り早い。
俺は結衣を壁際に追い込むと、自分と壁の間に結衣を閉じ込めた。
結衣は不思議そうな顔で俺を見上げてくる。
軽く首を傾げている仕草が小動物のようで、グッときた。
「政宗……?」
「いいこと、しようぜ」
「え……っん!」
そのまま噛み付くように、結衣の唇を塞ぐ。
思わず身を引こうとした結衣の肩を壁に押し付け、顔の横で手をついて体全体で圧を掛けた。
滑り込ませた舌で絡め取れば、柔らかな結衣の味が口の中に広がる。