第1章 みにくいあひるの子 …池のほとりで♥️
「あ、ごめん。 これじゃなんか違和感あるのかな?」
人になるべきか逡巡し、無言でいる木こりに彼が言う。
「けど人間になったら、まずいよね」
ボソボソ小さな声で話すアヒルだった。
「………何がまずいの?」
と、尋ねてくる木こり。
「そりゃ、こないだみたいに………」
「みたいに?」
「おれ、は」
アヒルは言い淀んだ。
「人になれるオオカミさんでしょう? 人生二度美味しいよね!」
「………は?」
木こりの声は明るく弾んでいて、アヒルは毒気を抜かれたみたいに彼女を見返した。
「しかも両方可愛くてキレイだし。 私ってほら、鈍臭いだけから、羨ましいなって」
黙ってしまったアヒルに、木こりは訝しげな視線を向けた。
「オオカミさん………?」
アヒルに幼かった頃の記憶がよみがえる。
それはなるべく考えないよう、脇に避けていた思い出だった。
『ねえあなた。 この子だけ、なんだか変な匂いがするわ。 人臭いっていうか』
『そうだな。 毛色も他と違って………純粋な狼なら黒か茶に灰色。 白の子は滅多に無いし、弱いとも聞く。 いっそ情が移る前に』
そう本当の両親が話していたのを覚えていた。
捨てられた自分を拾ってくれたのがアヒルの母親だった。
どんな理由でも、少なくとも自分は必要とされたんだと。 あの時アヒルは思ったのだった。
それで自分はアヒルなのだと思い込もうとした。
木こりと話していると嫌なことばかり思い出す。
ああ、でも。
それでも自分は彼女といるのが好きだ。