第1章 みにくいあひるの子 …池のほとりで♥️
朝もやでけぶった池のほとりで、アヒルは座って考えていた。
(なんでおれはあの時あんなことをしたんだろう?)
彼がいるのは木こりと出会った場所だった。
また会いたいと思ってはここに足を運び、会っちゃダメだと思い直して引き返す。
彼女の狼狽えて怯えた顔を思い出した。
あんなに優しくて綺麗な人に、今思えばとても失礼なことをしたと思う。
「………真弥さんを傷付けるのはいやだなあ」
(おれは一体、何なんだろう?)
まるで得体の知れないものみたいに思えて、アヒルはそんな自分が怖かった。
「きゃあ、オオカミさんっ!!」
「っ!?」
今度は葦の茂みからスライディングしてきた木こりだった。
咄嗟に彼女の上半身を受け止め、アヒルはしばらくドキドキして「ご、ごめんなさい。 足を滑らせて? 葦だけに」などと言ってあたふたしている木こりを支えていた。
甘い匂いがアヒルの鼻をついた。
「お、オオカミさん。 一応、毎日来てたんだよ私」
「………なんで」
「またねって、言わなかった?」
ぷっ、と頬を膨らませて木こりが横を向く。
「なんで、おれなんかに」
アヒルはなぜだか泣きそうになった。
「むっ、『なんか』なんて言うの、禁止ね。 あれっどうしたのそれ。 ケガ?」
ついと前脚を取られ、アヒルの兄弟に小突かれた痕に木こりが躊躇なく口を付ける。
赤い小さな舌でぺろっと舐められ、アヒルの背中がゾクッとした。
「あのさ。 真弥さんって、心臓に悪いよね………」
池のほとりに並んで座り、アヒルが呟いた。
「あ、それ。 浩二にもよく言われる!」
「弟?」
「そうなの、生意気なんだよ! こないだも」
言いかけた木こりの唇を、アヒルの口がふわりとつついた。
「………」
木こりは固まっていた。