第6章 眠れる森の美女…103年後
階段が途切れて行き止まりになった。
今いる高さは三階ほどだろうか。
その真下でハルカが姫を見上げていた。
(………目を合わせると…この人の瞳って、とっても綺麗だわ)
まるで黒曜石みたいに曇りなく、強い目。
姫が激しく打ちそうになる鼓動に胸を抑さえ、彼に呼びかけた。
「わ、私も。 貴方と、一緒に行っていいかしら?」
「は? 大嫌いな奴となんで」
言いかけ、その後に、ハルカが複雑そうな表情で姫から顔を背けた。
「………あのなあ。 俺は金もあんまねえし地位も捨てるし、ついてきたっていい事なんかねえ。 やっと目覚めたんだろ? 今度は間違わずに元の城に帰ればいい」
「私は外へ出たいの!」
そう、とても長い間、眠ってばかりの自分にはいつも選択肢が無かった。
王の不機嫌を恐れ家を憂う、それは今もだ。
(もしもこの人が外の世界に連れ出してくれるのなら)
姫が柵につかまり身を乗り出した。
「お金なんて、心配いらないわ。 100年もの間、私は寝床しか持たなかったもの。 眠る場所ぐらいは自分で決めたいし、そ…れに」
姫には確信はなかった。
だが違っていても構わなかった。
もしかしてと、思っていたことを彼に伝えた。
「だから、貴方がくれた櫛とドレスがとても嬉しかった!」
するとハルカは一瞬驚いて、それから呆れて下を向いたのだった。
「ドレスって………ありゃ、寝間着だろうが」
涙ぐんでいる彼女に向かい、彼が頭上の姫に向かって両手を伸ばした。
「あんたが望むなら。 もしも受け止めきれなかったら、そうだな。 一緒に死んでやるから」
何でもないような顔をして、そんなことをさらっと言う。