第6章 眠れる森の美女…103年後
自分の中の王子様はいなかった。
………姫は自分のなかで結論づけた。
「夢をみていたのかもしれないわ」
現実から目を背けたくって、あんまり優しくてあんまり心地よい夢を。
彼の気まぐれにもらった贈り物なんかに浮かれて。
「………それは置いても」
あの王に今後も逆らい続けること。
想像するとそれもまた寒気がした。
「ああ、どうすればいいの………?」
姫は両手で顔を覆い自分の愚かさを呪った。
その時、窓から入ってきた小さな影が姫の視界に入った。
「チュンチュン、姫様姫様」
「………っ鳥さん!!」
驚いて、両手を差し出すとパタパタ飛んできた鳥がそこに止まった。
いばら城で別れた以来だ。 姫が懐かしさに声を弾ませた。
「どうしていたの? お城を離れた時に貴方はいなかったわ」
「え、あの実は。 怪我をしたり、まあ、色々と」
すると鳥は決まり悪そうに話をぼかしたが、その後、何か思い出したように羽をバタつかせた。
「そ、それより!! すぐにお支度を。 弟王子様が、今ほど、旅に出てしまいます!」
「………それが、私に何の関係があるの?」
首ごと頭を傾げきょとん、と姫が聞き返す。
「ええっと……それは…」
鳥は言い淀んだ。
彼はハルカの所で療養していた鳥だった。
『姫さんに余計なこと話してみろよ、てめえ。 恩知らずの烙印押した上に今度は確実にコロス』
それが冗談か本気かは分からないが、きつく彼に口止めされている。
それでも鳥はハルカに命を助けてもらった恩返しがしたかった一心で、ここに来たのだ。
「姫様………泣いていたのですか?」
「………」
姫の頬の涙の跡と、無言で目を伏せる彼女を見て、鳥は彼女が今、幸福ではないのだと思った。