第5章 眠れる森の美女…102年後♥️♥️
「あの、ちょっと………」
彼を振り返ると、王子はぶつかった際に落とした櫛を拾ってくれている所だった。
それで、姫の顔がぱあっと明るく輝いた。
「あ、ありがとう。 その櫛は、とても大切なものなの。 お兄さんが私に」
それをじっと眺めていたハルカがぽつりと言う。
「欠けてる」
「えっ!??」
彼女が驚いて立ち上がり、彼の手元を覗き込もうとした途端。
「落ちた拍子にかな。 ふん、鳥? あんたにゃこんな安物、似合わねえな」
馬鹿にしたような口ぶりで言ったハルカが二本の指でそれを挟んだ。
パキッ…
「っ!??」
姫は一瞬何が起こったのか分からなかった。
カラン、カラン、と軽い音を立て廊下に落ちた櫛は、縦に真っ二つに割れている。
「………もっと良いモン買ってもらえ」
彼女の顔を見ようともせず彼は背中を向けた。
(大切だって、確かに言ったのに)
「ど、どうして………?」
彼女は唖然として、櫛とハルカを交互に見つめた。
壊されてしまった大切な、王子様からのプレゼント。
城に来てから今まで、こんな風に接してきた人間はいなかった。
そもそも自分が彼に何をしたというんだろう。
理不尽だと思う感情が湧いてきて、姫は彼の後ろ姿に大声をぶつけた。
「わ、私! 貴方なんて、大嫌い!!」
「こっちこそ…生意気な女は趣味じゃない」
ハルカは振り向くことなく大股でその場を去っていった。
取り残された彼女は、怒りと悲しみで震えながら、その場に立ちすくんでいた。