第5章 眠れる森の美女…102年後♥️♥️
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戴冠式を終え、国民は新しい王の誕生を喜んだ。
王となったイズミと並んで城の上から手を振り、姫もほぼ新たな妃として皆に知らしめられた。
続けざまの祝い事でイズミの日々は多忙であった。
彼は姫が歩き回るのを嫌った。
『特に弟には会わないようにね』
朝食の席で彼に言われた彼女が不思議そうに首をかしげた。
『弟王子様に? なぜ?』
彼は笑顔を作りながらも何も言わなかった。
………姫はふたたび口をつぐんだ。
『良い子だね。 夜はちゃんと寝室に戻るから、待っておいで』
額にキスを落とした彼が公務へと出掛けていく。
そんな今朝のやり取りを頭に浮かべ、その帰りに、姫は移動のために廊下を歩いてた。
(弟王子様、というと。 なんとなく怖そうな、あの背の高い…あ、でもたぶん王子…王様と同じぐらいね)
最初に家族を引き合わせる時に目にして、軽く挨拶を交わしただけだ。
戴冠式の際も、彼は形だけ出席したみたいに控え目な様子だった。
うつむいて、無口な弟王子を思い出していると、曲がり角からやってきた人物に勢いよくぶつかった。
「きゃっ…!!」
「………ぶねえな。 前みろ前」
後ろにコケて尻もちをついた姫に、彼が無遠慮に口を開いた。
この人が、うん。 弟王子様。
やっぱり怖いわ。 彼女は心のなかで納得した。
(髪なんか、カラスの濡れ羽色みたいに不吉で)
頭ごなしに注意されてかちんときた彼女は内心思った。
率直に彼に言ってみる。
「ごめんなさい。 でも、城内でそんなに早く歩く貴方も悪いと思う」
「へえ? そりゃ、悪かったな」
姫は少しの間、当然のマナーとして彼が手を差し出してくれるのを待った。
が、彼は廊下に座り込んでいる姫をそのまま通り過ぎた。