第2章 みにくいあひるの子…旅の途中で
オオカミは彼のあとに続き、屋敷の縁側に並んで座るよう促された。
「通常、白毛の狼というものは人に変われる特異な種だが、弱く短命な個体なのだ。 お前は朱璃と出会えて幸運だった。 過酷な修行を経て強靭な精神と肉体を手に入れた者だけが、大人の人狼となる」
オオカミがボンヤリした頭で彼の話を聞いていた。
「そら、そこの雪牙も今はここで修行の身だ」
ふと気付いて横を見ると先ほどの少年がオオカミにくっついて座っていた。
よく分からないが懐かれたっぽい。
「それで、お前はこれからどうする? 見た所、かなりの実力があるようだ。 ここで皆と過ごすか」
ここで『皆』と暮らす。
彼の言葉はまるで外国語みたいにオオカミには聞こえた。
「そんなものはないよ。 おれはまだ、供牙さんみたいな大人じゃないし。 何よりも会いたい女性がいるから」
「ふむ………? 女人の件は分かったが、何を言ってる。 そこの池を覗いてみなさい」
供牙に言われてオオカミは立ち上がり、斜め向かいにある池に近付いた。
清んだ水が底からの湧水で微かに水面が揺れている。
目を凝らしてじっと見ていると、見覚えのない体格のよい青年の姿がそこにあった。
「え? あれっ」
キョロキョロ辺りを見回し、また水の表面を覗き込む。
「ち、ちょっと待って………失礼」
彼はいきなり衣服を脱ぎ出すとオオカミ姿に変わった。
「………」
真っ白で力強そうな狼。
こちらも以前よりふた回りは大きい。
「知らぬ間に成長したらしいな」
くくと笑われるも、オオカミは困ってしまった。