第2章 みにくいあひるの子…旅の途中で
(たしかこの辺のはずだよね)
オオカミが足を踏み入れてみると、そこは平和そうな雰囲気が漂う里だった。
ポツポツと家が建ち並び、そこら中に花畑が道や畑を彩っていた。
(うーん? でも、何だろう、この匂い)
懐かしいような、嗅ぎ慣れた不思議な匂いだった。
「こんにちは」「いい天気だね」と通りがかりの人が声をかけてきた。
それにお辞儀を返しつつ、オオカミは奥の方へ向かってとことこ歩いていく。
「んん? お前、新顔だな!」
大きな声のする方向に顔を向ける。
まだ小さな少年が後ろからオオカミを追いかけてきた。
振り向いた彼は少年に尋ねてみた。
「あのさ、この辺に供牙って人住んでる?」
「供牙様に会う前にオレと勝負だ!!」
質問をスルーして、飛びかかってこようとする少年の顔をオオカミが手のひらで受け止める。
「うー!うー!」と唸り、両腕をグルグル振り回す彼に、オオカミはくすりと笑いが漏れた。
真っ白の肌に銀の巻き毛。
変わった外見ではあるが可愛らしい子だと思った。
「そこな同胞。 わたしに何の用だ?」
静かでゆったりとした声音が耳に入る。
里の中でもひときわ大きな建物の軒下から、長身の男性が彼らに向かって歩いてきた。
「………」
浮世離れしている割には威風堂々とした様子から、一目みてただ者ではないと分かる。
長い銀の髪が細くなびき、日差しに反射して輝いていた。
(妖怪の旧友なら仙人かな? いや今、何て言った?)
オオカミは彼を見つめたままその場に立ちすくんだ。
「同胞って………」
「朱璃からの使いだろう? 彼女はそういう時に赤福を持たせるから………と言っても、匂いで分かるがな」
オオカミの手元をちらと見た男性がふ、と女性のようにたおやかに微笑む。
おばあさんの名前は朱璃といったらしい。
「来なさい。 茶を淹れよう」
そして男性………どうやらこの人が供牙。