第10章 マッチ売りの少女…12月31日♥
─────まったくこの子は……本当に、何て単純なんだろう?
「まあ……そんなところかなあ。 君がそう思うならそれでいいよお」
………結局、皮肉にもホーリーと名付けられてしまった死神の青年は曖昧に返事をした。
冥界には神も悪魔も存在しないのだが、別に訂正する必要も感じなかったからだ。
しかしサラはそんな返事にも満たされた笑みを浮かべる。
「ありがとうございます! 私はてっきり、クリスマスには…ああ! ようやく……来てくださらなかった理由が分かりました。 私はちゃんとおばあさんの言葉を信じるべきだったのに。 どうか神さま、お許しください」
しまいに椅子から降りて跪く。 彼に向かって胸の前で手を握り、懺悔をはじめる少女だった。
自分に拝まれても困る。 ホーリーはきまり悪げにボリボリと頭を掻いた。
せっかく少女に会えたというのに。 先ほどから感じている苛立ちの理由が彼には分からなかった。
「……どうやらサラちゃんは根っからの善人のようだねえ」
「はい?」
ふと真顔に戻ったホーリーが付け加えた。
「ねえ、君はどうして自分がここに連れてこられたのか知ってるのかい?」
ついさっきまで笑顔だった少女が口ごもる。
「い、いいえ…」
首を横に振ると、来た時は湿っていた彼女の長い髪がさらさらと揺れた。
「そう」
突然、ホーリーがあっという間にサラとの間合いをつめる。
そして彼女がなにか言う前に後ろに倒された。
「これでも分からないかなあ?」
少女の細い首に手を回し、硬い床にサラの背中が押し付けられていた。
男性の体の重みが遠慮なしにのしかかる。
「かっ、…ホ…さ……」
息苦しさにサラが顔を歪ませた。
「言ってなかったけどさあ、実は僕、君を迎えにきたんだよねえ」