第10章 マッチ売りの少女…12月31日♥
もう一度小声で「ありがとう」と言った後、大きく口を開け、カプッとケーキにかじりついた。
青年もテーブルに肘をつくようにして座り直すと、自分も皿に手を伸ばした。
ちら、と彼女の方を見ると目が合い、クリームのついた口で嬉しそうに笑う。
「おいひい、です」
「うん」
「すごく、おいしい」
「そうだねえ」
「すごい、こんなの初めて」
「そうだろうねえ」
「天国の食べ物みたい」
「それは光栄だなあ」
「私、生まれてからずっとこういう甘いものをお腹いっぱい食べてみたかったんです」
「ふうん」
青年はうわの空で相槌を打っていた。
また視線がぶつかり今度はサラが不思議そうに彼を見てきて、青年はすぐに目を逸らした。
どこかむずがゆく、イライラして落ち着かない気分だった。
(…何でかな…タイミングを外したかな…)
青年はマッチを手に取り、それをこすった。
(よおし、次こそ)
するとマッチの先の小さな炎の中から、鶏肉の丸焼きといったご馳走が現れた。
火が消えていくにつれ、それは香ばしそうな焦げ目まではっきり見えてくる。
突如ケーキの横に現れたご馳走を見ていたサラは、フォークを手から取り落としそうになった。
「これも食べていいんだよお」
「………」
そう言い、驚いて言葉も出ない少女にすすめる。
「っ…え、ええっ!?」
「実は僕、魔法が使えるんだよねえ。 マッチをこすると欲しいものが出てくる」
青年はサラの顔を伺ったが、彼女は丸い目を余計に大きくして顔をほころばせる。
「わあっ。 ほ、ほんとに!?」
そこで青年はサラの笑顔を目にし、またもや毒気を抜かれたように、ご馳走をその場から消すのを止めてしまった。