第10章 マッチ売りの少女…12月31日♥
サラは目を奪われたように目の前のケーキを食い入るように見つめている。
「私、誰かが来たのに、ちっとも気付かなかったわ……ああ、それにしても、このクリームの真っ白なこと! まるで朝一番の雪みたいね!」
つい先ほどまで、あんなに警戒していた青年にさえ好意的な感情を向けている。
(相変わらず君は、そんなふうにすぐ信じちゃうんだよねえ…ちょっと親切にしてあげただけなのにさあ…ククク)
内心おかしくてたまらない、そんな感情を口元にあてた拳で隠しながら、彼はサラに声をかけた。
「遠慮は無しだよお? 上のお菓子も食べてみるといいよ?」
青年が椅子をすすめてあげると、サラが感極まった様子で目を輝かせた。
(そうそう、それで食べようとした途端に……また魔法でこれを消したら…ハアッ…僕がこの子を失望させられるなんて)
彼は再び下半身に血がのぼってくるのを感じた。
「だ…だけど…何だか、もったいないわ」
「ッハアハア……何がさあ?」
「なぜかしら…触れると…まるで、音もなく消えてしまいそうで」
「…!?…き、消えないよおお?」
ギクッとして返事をするとサラは遠慮がちに青年の顔を見た。
「ほ…本当に…?」
「ほらほら、クリームを指ですくってごらん」
少女はクリームを指に取り、おそるおそる一口分を口に入れた。
もぐもぐと咀嚼する度に、みるみる頬が紅潮していくのがわかる。
口の端についたクリームまで指で拭って舐めとったあと、
「おいしい! お、おいしいわ!」
サラは目を丸く見開きながら青年を見上げた。
それからはっとしたように慌てて視線をそらす。
どうやら恥ずかしくなったらしい。
「……あ、あの……ごめんなさい……」
そんな少女の反応を見て、青年はつい、部屋に備え付けの小皿とフォークを手渡した。
サラは丁寧にお礼を言い、お皿を受け取って
「いただきますっ……」
と手を合わせて、豪快にフォークですくった。